【競馬】2頭の2歳王者とJRA賞に思うこと

 有馬記念はブラストワンピースの勝利で幕を閉じた。年明けに発表されるJRA賞各部門の行方も見えてきつつあるが、個人的に混戦とみているのが牡馬戦線だ。3歳、4歳以上に加え、普通なら無傷4連勝で朝日杯FSを制したアドマイヤマーズで“無風”に終わりそうな2歳もまだ分からない。ホープフルSに出走する超良血馬サートゥルナーリア、重賞2勝馬ニシノデイジーがいるからだ。

 「初めて乗った時からこの2頭は違った。どっちが強いか全然分からないよ。サートゥルナーリアは化け物かもしれないから」

 これはマーズで朝日杯FSを勝った翌週に、M・デムーロ騎手を直撃したときの談話だ。素質を高く評価しているのが、言葉の端々から伝わった。母が名牝シーザリオで、兄にG1馬エピファネイア、リオンディーズがいる血統。無論、今回勝つことが大前提で、その勝ち方も問われるだろうが、大きな可能性は感じさせる。ニシノデイジーも勝って重賞3勝でG1馬となれば、価値は非常に高い。

 こうして2頭の2歳王者が誕生する状況は、ホープフルSがG1に昇格した昨年から始まった。昨年度は、当時3戦3勝のダノンプレミアムが最優秀2歳牡馬に選出。同馬が275票、2位のタイムフライヤーは13票と差は大きかったが、当事者の後者を管理する松田国英調教師は、どう分析したのだろうか。

 「京都2歳Sを勝ち損なった(2着)のが誤算でしたね」。確かに同じ重賞2勝で、オープン勝ちも含めて4勝となれば、相手がデビュー3連勝で朝日杯FSを3馬身半差で圧勝したとはいえ、少なくとも票差自体は詰まったように思う。加えて、指揮官は“レースの質”にも言及した。

 「朝日杯には説得力のあるメンバーがそろうが、ホープフルはどこか敗者復活戦のようなところがある」

 格は同じG1でも、出走馬のレベルに差があると言うのだ。歴史があり、路線が整備されている朝日杯FSは、何頭かの重賞馬がしのぎを削る構図になりやすい。一方、ホープフルSは同じ2000メートルの重賞が京都2歳Sしかなく、1800メートル戦も札幌2歳S、東スポ杯2歳Sのみで、今年の出走馬も重賞勝ち馬はニシノデイジー1頭だけだ。

 加えて、レベル格差には、力勝負になりやすい阪神外回りのマイル戦と、トリッキーな中山二千という舞台設定の違いも影響しているという。ただ、では新たに重賞を作って路線を整備すればいいのか、舞台設定を変えればいいのか。トレーナーは、そんな疑問に反論するかのように持論を展開した。

 「皐月賞と同じコースで行われるんですからね。皐月賞を目指す馬は、ホープフルSから行くべきだと私は思います」。確かに理にかなった指摘だ。一方、2歳の段階では広いコースで伸び伸びと走ることを覚えさせたいという育成方針で、レースを選ぶという考え方も理解できる。

 私がこの取材を進めて感じたことは2つ。ひとつは、馬には個体差があり、路線選択に正解はないということ。もうひとつは、いつかホープフルSの勝ち馬がその年のJRA賞を獲得し、松田師の言う“レースの質”にいい影響を及ぼしてほしいということだ。後者は、今年のメンバーなら可能性は十分にあると考えている。

 ふと、昔、先輩競馬記者が「99年度の最優秀5歳(現4歳以上牡馬)、年度代表馬の話をしていたら何時間でも飲んでいられる」と懐かしそうに語っていたのを思い出した。当時はエルコンドルパサーが受賞したが、スペシャルウィークでも、グラスワンダーでもある意味で正解だっただろうし、同時に批判も生まれていたと思う。

 例えば、今年度の最優秀3歳牡馬はブラストワンピース、ワグネリアン、ルヴァンスレーヴなどで票が割れるだろう。どの馬が獲るべきかというより、そうした議論が活発化することこそが、競馬界にとっての“正解”なのかもしれない。ホープフルSが、年末年始の私の頭を悩ませる結果になることを楽しみにしている。(デイリースポーツ・大西修平)

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