【野球】光と影を知った24歳、阪神・藤浪晋太郎の現在地 再び輝く時を信じて

 阪神・藤浪晋太郎投手(24)を取材すると、いつも頭の中にある曲がリフレインされる。尾崎豊の名曲「僕が僕であるために」。藤浪も今季、Mr.Childrenの桜井がカバーする同曲を投手用の登場曲にしている。話を聞いていると、なぜか頭の中で曲が流れる。不思議な感覚だ。

 僕が僕であるために-。

 甲子園春夏連覇の偉業を引っ提げ、2012年度ドラフトで4球団の競合の末、1位指名で阪神に入団。初年度から開幕ローテをつかむと、いきなり2桁勝利。セ・リーグでは1967年の江夏豊以来、実に46年ぶりとなる高卒新人10勝を記録した。2年目には11勝、3年目に14勝と順調な成長をたどったが、15年の7勝から、3勝、5勝…。成績は下降線をたどる。

 今月11日。プロでは6度目となる契約更改交渉に臨んだ。「がっつりダウンでした」と、球団の提示額は今季年俸1億2000万円から、減額制限近くの30%減となる8400万円(金額は推定)。もがき、苦しみ、光を見つけ、「いい経験だった」と振り返ったのは昨季のプロ5年目。今年は「いいシーズンではなかったのは確か」と一言で表現した。

 苦しい1年…いや、3年だっただろう。金本知憲監督(50)が就任した2016年シーズンから、先発の柱として期待され続けてきた。同年は7勝、昨季は3勝。それでも今季、開幕2戦目を任された。前半戦は不調だったが、指揮官は後半戦のキーマンにも指名。終盤の4戦で3勝をするなど、確かに復調した姿を見せた。結果的には13試合の登板で5勝3敗。終盤の手応えを来季の自信にしたい。ただ、藤浪は言う。

 「最後の方も良かった、良かったと言ってもらいますが、数字を見たら決してそうでもないので。自分としては、完封もしましたけど、それ以外の試合はいい数字でもなかった。まだまだです」

 ただ、輝かしい栄光に後に、挫折を知った3年間で、得たものは多かったと言う。藤浪は「少し、大人になったかな」と表現した。

 「いままでガーっと力んでたのが、少し俯瞰(ふかん)して遠目から、自分のことを見られるようになったかな。良いも、悪いも経験できたので。いろんな目で自分を見られるようになっていると思う。これが、年齢を重ねてなのか、いろんな経験をしてなのか。一般社会で、自分の年齢でここまで良いも悪いも経験することは、なかなかないと思うので。そういう意味では人生として、いろんな経験させてもらっている。プラスにしていきたいですし、一皮むけて、いい大人になっているかな、と」

 超満員の甲子園で受ける歓声、そして罵声…。他には知り得ない苦悩、苦労があることは、想像に難くない。全てを経験した藤浪は「良かった時の自分より、勝っていたころの自分より、いまの自分の方が好きですね」と静かに笑った。極端に言えば、自分の弱さと向き合い、必死に努力することで、強さにと変えようとしているのだろう。

 まだ、24歳である。指揮を執った3年間、期待の言葉を掛け続けた金本前監督は、今年のキャンプ前にこう言った。「支えてあげると言うとオーバーですが、できることは何でも協力してあげたい。彼の野球人生にプラスになるようなことは、何でもやってやろうかなという思いでいます」。そし7月にも「誰が監督でも、彼には期待をする」と言った。誰もが認める球界の宝だ。

 大幅な減額提示をした谷本修球団本部長(54)も、厳しい査定に期待の言葉を添えた。「藤浪が、しっかりイニングを投げてもらわないと、チームとして上には上がっていかない。頼むぞ。しっかり頑張ってくれ」。そして、続けた。「過去は変えることができないんだ。この先にある未来を、一緒に変えていこう」。球団は藤浪を獲得した年に、育成プロジェクトを抜本的に見直した。一流選手への成長は悲願であり、宿命でもある。

 光と影を知った藤浪の現在地。表情はどこか明るい。「(矢野監督には)ファームにいる時も、よく声を掛けていただきました。楽しくという捉え方はいろいろありますけど、ふざける楽しさじゃなく、活躍して成績が出れば楽しいです。いい顔で野球ができるようにやっていきたい」。雪辱を期す2019年は、プロで7年目のシーズンになる。再び輝く時を信じて、また新たな戦いに備える。(デイリースポーツ・田中政行)

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