【競馬】一目惚れ、共闘、惨敗…だが、大器グレイルの本領発揮はこれからだ

 わずか3戦のキャリアで約3カ月半ぶりの実戦。しかも経験した距離は9Fまで-。関東馬フィエールマンの歴史的とも言える菊花賞制覇で、今年の牡馬クラシックが幕を閉じた。

 その翌週の栗東トレセン。真っ先に会いたい人がいた。今年の牡馬三冠で△◎◎を託した、グレイルを管理する野中賢二調教師だ。結果として、同馬の三冠は6、14、10着-。ダービーと菊花賞は見せ場もなく敗れたが、往生際の悪さからか、自分のなかで、まだくすぶり続けるものを感じていた。それを確かめるのが目的だった。

 野中師の第一声は謝罪からだった。「応援してくれたのに、ごめんな」。はた目から見たその様は、君主に仕えた家来のようだったかも知れない。だが、立場こそ違えど、我々は戦いに敗れた。それゆえ、師のひと言はどこか“労い”のように感じられた。

 「おもろなかったなあ」。そう続けた師の言葉のなかにも、何とも言えないくすぶりを感じた。「出の遅さは覚悟していたけど、前半(5F)が1分2秒7ってなあ。行くはずの馬が行かず、みんなポケットに入ってガツンと引っ掛かって…。あんなに早く態勢が決まってしまったら、ウチの馬はどうしようもない」。これも競馬。言い訳無用と言われればそこまでだが、このモヤモヤ感はしばらく晴れそうもない。

 私が初めてグレイルを見たのは、デビュー前の栗東CW。武豊Jを乗せた追い切りの動きに度肝を抜かれた。2歳馬とは思えぬほどのダイナミックな走りに一目惚れ。その時点で「来年のクラシックはこの馬で」と決め込んでいた面もある。

 一方、野中師の初見は1歳セレクトセールの下見だったという。「とにかく馬体が素晴らしかった。あか抜けていたし、皮膚も薄いし…。ただ、ハーツクライ産駒特有の“脚の難しさ”はあった。膝下が悪かったんだけど“まあ、ハーツ産駒ならこんなものか”と。でも調教師の立場からすれば、選びづらい馬であることは確かだよ」。けが等のリスクを凌駕する魅力が、黒鹿毛の若駒にはあった。

 野中師の期待通り、グレイルは新馬→京都2歳Sを連勝。早い段階でクラシック制覇が現実味を帯びてきた。「新馬戦は不良馬場。独特の緩さがある馬だけに“こんな馬場でデビューさせていいのか?”という思いもあった。でも、それも杞憂に終わった。やっぱ、すごい。“持っている馬ってこんなものなのかな”と思ったよ」。

 そして翌年-。屈辱とも言えるクラシック戦線へとつながるわけだが、指揮官が白旗をあげることなど毛頭もなく、リベンジへの思いはこれまで以上にメラメラと燃えている。「能力はあんなもんじゃない。あの(緩い)状態で京都2歳Sを勝つぐらいの馬だし、凡走したレースにも全て理由がある。やはり、あの脚の使い方、そして底力は一流馬特有のものがある。心身ともに課題があり、本格化はまだ先だけど、今後も芝の中長距離をターゲットに大きいところを狙っていきたい」。

 菊花賞の大敗は誰が悪いわけでもない。だが察するに、野中師のはらわたは煮えくり返っていることだろう。最後のひと言が印象的だ。「こういう負け方をすると、人間の感情だけですぐ次のレースに使ってしまいがちやん(笑)。でも、それだけはやってはいけないと思っている。甘やかし過ぎず、それでいて焦り過ぎず。パンとしたら(大舞台で)絶対に勝負になる馬だから、成長に合わせたローテを組んで大事に育てていきたい」。そのグッとこらえる指揮官の姿に、今後のリベンジを確信した。

 私自身、グレイルには多くのことを学ばせてもらった。結果として、牡馬三冠では悔しい思いをしてきたが、陣営とともに最前線で戦うことができたのは大きな財産であり、競馬記者冥利に尽きる。ビッグタイトルを手にする日を信じて、この先もともに戦っていきたい。大器の本領発揮はこれからだ。(デイリースポーツ・松浦孝司)

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