【野球】相手を飲み込む早実の応援 「清宮対策」の異例ナイター決勝で神宮どうなる?

 27日の春季高校野球東京大会決勝が、俄然、注目を集めている。西東京地区の宿命のライバルでもある早実と日大三がぶつかるだけでなく、日程が平日ナイターに変更されたためだ。

 日大三の敵は、早実だけではない。球場のムードとも、戦わなければならない。

 王貞治というスーパースターの母校ということもあるのだろう、早実は、もはや国民的人気チームと言ってもいい。

 振り返れば、04年、05年と夏連覇を達成した南北海道代表の駒大苫小牧は「北のチャレンジャー」という感情移入しやすい物語をバックに、甲子園において相手が地元関西のチームであっても応援では負けていなかった。

 その香田をして「初めてアウェーを感じた」と言わしめたのが、06年夏の決勝でぶつかり、駒大苫小牧の甲子園連勝記録を「14」でストップさせた斎藤佑樹(現日本ハム)を擁する早実だった。香田が振り返る。「小学生までが肩組んで、『紺碧の空』を歌っててさ。揺れてるスタンド見てたら、気持ち悪くなっちゃったもん」。

 清宮が入学した後も、何度となく早実の応援に飲み込まれてしまったチームを目撃してきた。15年夏、西東京大会の決勝では、東海大菅生は7回を終え5点リードしていたにもかかわらず、8回に8失点し、逆転負けした。走者が出るたびに、あるいは得点が入るたびにスタンドがどよめき、東海大菅生の投手陣は5四球を与えるなど、完全に自分を見失ってしまった。

 先の選抜大会でも、試合巧者として知られる四国の名門・明徳義塾が1回戦で「早実ワールド」にはまった。試合は終始、明徳ペースで進み、9回表を迎えた時点で、明徳は4-2とリード。ところが、その裏、1点差と迫られながら、2死後、清宮の前の打者を何でもないピッチャーゴロに打ち取ったと思いきや、まさかの失策。清宮はこの瞬間、「これは勝ったな」と確信したという。

 清宮まで回したことで、球場の雰囲気がガラリと変わった。ここから明徳は連続四球を与えてしまい、同点に追いつかれ、延長の末、敗戦した。百戦錬磨の馬淵史郎監督も「早実には野球の神様がついとる」と天を仰いだ。

 27日の決勝は、観客が押し掛けることを想定し試合日時が変更になった。いわば「清宮対策」であり、「早実対策」だ。その時点で、すでに早実ペースと言えなくもない。監督の和泉は言う。

 「途中でナイターになったことはあるけど、最初からナイターというのは経験がない。想像つかないね」

 どこか、楽し気である。

 彼らが強(したた)かなのは、清宮も「そこがうちの強さ」と話すように、球場の空気を変え、その雰囲気を味方につけることに自覚的なことだ。

 対する日大三のエース櫻井周斗は、昨秋の決勝で、雰囲気をまとったときの早実の力は体験済みである。最終回を迎えた時点で2点勝っていたにもかかわらず、やはり8-6でサヨナラ負けを喫した。

 「片方のスタンドだけじゃなく、球場全体が早実の応援になる。応援歌とかも、僕たちが思わず口ずさむぐらい覚えちゃってるんで(笑)。前の試合で早実がやってるとき、応援を聴いただけで、あの試合を思い出しちゃいますもんね」

 高校野球の公式戦で、平日ナイターを前提に試合日程が組まれるというのは前代未聞ではないか。仕事帰りの客も見込まれ、外野席を解放するとの報道もある。異例尽くしの神宮球場が、どんな雰囲気になるのか。それを体感するだけでも価値があるかもしれない。=敬称略=(ノンフィクションライター・中村計)

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