【ライフ】保護猫シェルター付きゲストハウス博多に誕生 寄付に頼らず運営

「ホステルねこ蔵」の外観
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 保護猫シェルターを併せ持ったゲストハウス「ホステルねこ蔵(くら)」が3月23日、福岡市博多区千代にオープンする。動物愛護センターから殺処分が決まった猫を救出。シェルターで一時的に保護し、飼い主を探す。エサ代などの運営費用は宿や飲食スペースの売り上げから捻出するというユニークな試みだ。福岡での注目度は高く、17日のレセプションパーティーでは、地元テレビ局が現地中継したほど。事業を手がける「DM都市開発」(本社・福岡市)のマネジャー・森信子さん(50)は「保護猫活動を継続的に行っていくための一つのモデルケースになれば」と意気込んでいる。

 ゲストハウス「ホステルねこ蔵」は、福岡藩祖・黒田官兵衛など黒田家の墓所がある崇福寺のすぐ近くにあり、新築の木造2階建て。1階は保護猫シェルターと、ランチや日本酒、和食が楽しめる飲食店(全14席)、2階はドミトリータイプの客室(最大18人収容)となっている。宿泊料は1泊2900円~。

 福岡は外国人観光客やバックパッカーも多く、「国内外の猫好きに集まっていただいて、出会いや交流、情報交換の場になれば」と森さんは期待する。

 20代のころから、「不幸な猫を1匹でも減らしたい」と自宅周辺の野良猫の里親募集やTNRに取り組んできた。TNRとは「Trap(捕獲し)、Neuter(不妊去勢手術を行い)、Return(元の場所に戻す)」ということ。森さん自身、交通事故にあった野良猫を助けて病院に運び、数十万円の借金を背負ったこともある。

 同社では、もっと猫との暮らしを楽しんでほしいと「猫と暮らせるマンション」や、「猫と暮らせるシェアハウス」を手がけている。そうした事業をするなかで、森さんは福岡市内で保護猫活動をしているボランティア団体「福ねこハウス」代表の井上惠津子さん(55)らボランティアの人たちと出会う。井上さんは愛護センターから殺処分される猫を自宅で引き取り、飼い主を探す活動を5年前から手弁当で続けてきた。

 一昨年7月、井上さんから森さんに電話がかかってきた。「殺処分される予定の猫がいる。でも、私のところを含めどのボランティアも引き受ける余裕がなくて…このままだとこの子は…」。それを聞いた森さんは、その猫を自分で引き取って飼うことを決断する。

 「もし私が引き取らなければ、この子はすぐにも処分されてしまう。そんな待ったなしの決断を突きつけられ、ハッと気づいたんです。それまでは自分が目にする範囲の猫だけしか見えていなかったけど、この子のように実はたくさんの猫たちの命の灯が、一部のボランティアさんの他には誰にも顧みられることなく消えているんだって」

 「殺処分される猫を一匹でも多く救い出したい」。森さんのなかで、「保護猫シェルターを作りたい」との思いは深まった。若いころからシェルターをいつか作れたらと思ってはいた。だが、そのためにはまとまった資金が必要な上、維持していく費用をどうするかなど、実現の方法はずっとわからなかった。森さんは井上さんらボランティアの人たちと議論を重ねた。そして、「宿や飲食スペースとシェルターを組み合わせ、その売り上げの一部を運営費用にあてればいいのでは」とのアイデアを思いついた。

 同社にとっては前例のない試みのため、事業化には施工や運営面などでさまざまなハードルがあったという。例えばシェルター内では、猫が病気になったときに隔離するパーティションや、猫たちが少しでも快適に過ごせる設備が必要だが、予算が足りない。そこで、クラウドファンディングで資金を募ると、目標の110万円を上回る133万円が寄せられた。多くの人たちに支えられ、課題を一つずつ乗り越えて、この春、無事オープンにこぎつけた。シェルターにはいま11匹が収容されている。どの猫も井上さんたちが救い出さなければ、いまこの世にはいない子たちだ。

 飲食店は誰でも利用でき、席からはシェルター内を元気に走り回る猫たちをガラス越しに眺めることができる。宿の清掃や猫の世話など現場の業務全般は「福ねこハウス」に委託し、井上さんらが管理する。井上さんは「猫を飼いたくても飼えない人、いずれ飼いたいと思っている人、ボランティアをしてみたいと思っているけどなかなか踏み出せない人など、関心がある方は、気軽に遊びにきてください」と優しくほほえむ。

 「ここでは宿泊や飲食をしていただくこと自体が、イコール保護猫たちの支援になります。ボランティアさんの持ち出しや寄付に頼るのではなく、事業収益を出して継続的に保護猫活動を行なっていけるしくみを作ることが大切だと思っています。事業が軌道にのってうまくいけば、同様の施設をもっと増やしていきたいです」と森さん。人も猫も幸せに暮らせる社会を目指して、夢を膨らませている。福岡を訪れる際は、ぜひ立ち寄ってみては。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

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