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【スポーツ】長谷川穂積「半年後、復帰していたら笑って」ジョークに聞こえない

3本のチャンピオンベルトを前に笑顔を見せる長谷川穂積=12月9日の引退会見(撮影・高部洋祐)
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 あれほど晴れやかな引退会見は初めてだった。9日、WBC世界スーパーバンタム級王座を保持したまま世界王者として17年のプロボクサー人生に幕を引くことを表明した長谷川穂積(35)=真正。周囲の猛反対にも現役にこだわり続けた男にしては拍子抜けするほど、未練を感じさせなかった。

 担当したのは最後の3年に過ぎない。だが記者として長谷川はボクシングを辞めない、いや辞められないのではないかと思っていた。

 14年4月23日、3年ぶり世界戦となりIBF世界スーパーバンタム級王座に挑み、キコ・マルティネス(スペイン)に7回TKOで惨敗。試合前には「負ければ引退」と繰り返しており、誰もが辞めると確信していた。

 しかし9カ月熟慮の末、昨年1月、急転の現役続行。「まだ燃え尽きていない。このまま辞めたら死ぬときに後悔する」との理由で舞い戻ってきた。

 父・大二郎さん(61)をはじめ、家族や近しい人の多くは反対していた。常に“引退”と背中合わせながら、「決めるのは俺」と抵抗し続けた。

 その後、ノンタイトル2戦は世界ランカークラスをともに撃破。「まだ強くなっている自分がいるのに辞められない」、「最近、ほかのボクサーの映像を見て、こうすれば、というのが分かって来た」、「新しい科学トレーニングと出会った」…。試合のたびに続ける意義を探していた。

 だからこそ、会見で話した引退理由はいまいち、しっくりとは来なかった。

 「ボクシングを始めた時の理由が、僕が強いかどうか知りたい。で強いのであればどれくらい強いのかを知りたくて始めた。前回の試合で結果であって、前回の試合をこなしたことで僕の中で一つ、強いか弱いかの結果が出た。これ以上、答えを探す必要はなくなったし、これ以上続ける意味もなくなった」。

 長谷川の勝負哲学の一つは「強いやつ以外とはやらない」のがある。9月16日、5年5カ月ぶり、国内最年長35歳9カ月で世界王座返り咲いた。王者として強い相手を選べる初防衛戦は十分に「続ける意味」があるような気がしたからだ。

 ようやく理解できたのはその翌日。兵庫県須磨区役所の講演会を聞いてからだった。試合45日前に左手親指を脱臼骨折したことが大きく影響していた。

 「前回は脱臼骨折して当日まで治らないとなった。でも1日も試合をやめたいと思わず、心が折れなかった。右手だけで戦うとも思っていた。相手に勝つ、王者になることを求めていたけど、相手に勝つから強いんじゃない。自分自身に勝つのが強いんだと、試合が終わってから気付いた。自分に勝つかどうかが欲しかった答え。1日も心が折れずにリングに上がった自分は強いんだから、これ以上、強いか弱いかを探すことはない」。講師役で青少年相手に語る長谷川の本音だった。

 前戦から2カ月、「ずっと自分と話していた」と自身と向き合い進退に葛藤し続けた。それは“ボクシングを続けたい自身”を納得させる作業だった。自らに潜むその“魔物”をKOし、長谷川は自分自身に勝った。それは試合以上に大変な戦いだっただろう。

 引退表明した12月9日にも重要なこだわりがあった。11日に米国でのWBC総会に出席し王座返上後の引退では、“持ったまま引退”にはならない。

 過去に国内では現役世界王者のまま事故死した大場政夫氏、世界王座を返上してから引退した徳山昌守氏がいる。世界王者のまま1度は引退表明し、復帰した新井田豊氏がいる。しかし長谷川は「誰のケースとも違う。僕だけ。史上初めて」と胸を張った。

 「永遠のチャンプ」の称号を手に、グローブを吊(つる)した長谷川。それでも「半年後、復帰していたら笑って下さい!」と、会見で語った言葉は100%ジョークとは思えなかった。(デイリースポーツ・荒木 司)

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