“必殺仕事人”の鋭い眼光はいまだ健在

必殺仕事人の異名を取る田島良保氏
2枚

 先日、行われた宝塚記念では、デイリースポーツの緊急連載「必殺仕事人・GPを斬る」の取材を担当させていただいた。競馬界の“必殺仕事人”と言えばもちろん、往年の名手・田島良保氏。13年9月に調教師を引退されて以来、久しぶりにお会いしたが、見た目に容姿は変わらず、当時よりも随分と血色が良さそうに感じた。

 セッティングは氏の娘婿にあたる川島信二騎手に一任。我が社の持ち込み企画にもかかわらず、田島家の皆さんが全面的にバックアップしてくれた。取材は氏の長女・千鈴さんが店長を務めるcafesalon「STILLROOM」(滋賀県栗東市)で午後5時半からスタート。心地よい空間も相まって、終始なごやかな雰囲気で取材は進んだ。

 結論から言えば、氏が本命に挙げたトーホウジャッカルは4着に敗退。予想的中とはならなかったが、7番人気の評価を思えば十分な見せ場をつくった。また、圧倒的1番人気のゴールドシップに対して「絶対か?と言われれば、一概には言えないと思う」ときっぱりと言い切ったあたりはさすが。その理由として「まずは前走の天皇賞・春で見られたゲート難。あまりにも長く入らなかった。中間の再試験で合格したけど、賢い馬だから、今でもあのときの記憶を忘れていないと思う」と鋭い視線で話していた姿は印象的だった。

 体調不良を理由に、定年を前にして調教師を引退。引退する間際は時折、しんどそうな表情を見せていたが、脳と心臓の手術を受けて体調が安定。ゆっくりと静養できたことで元気を取り戻したそうだ。最近は週1でゴルフに行ったり、お孫さんの世話をしたりしてのんびりと過ごしているという。

 田島氏には娘さんが3人、お孫さんが5人いるのだが、そのお孫さんも女の子が4人で男の子は1人だけ。完全な女系一族だが、その男の子は末娘と結婚した川島騎手の子。氏は「今はサッカーを頑張っているけど、将来はジョッキーになってくれないかな…とひそかに期待しているんだ。自分が元気なうちにそうなってくれれば、応援に熱が入りそうだね」と夢を描いていた。

 引退後も競馬は欠かさず見ているという。「さすがに現役のころのように数は見られないけど、信二が乗っているレースや、メーンレースはチェックしていますよ」。ファンと同じ立場になり、独自に予想をしていると、競馬の難しさをあらためて感じたそうだ。「現役時代は下見所で馬を見て“いいな”と思った2、3頭は大概いい競馬をしていたけれど、今はその予想がなかなか当たらなくて…。当時は集中力が研ぎ澄まされていたのだろうね」と笑っていた。

 調教師時代から感じていたことがある。「先生はジョッキー目線で話す人だな」と-。騎手から調教師に転身された方に多く見られる傾向だが、特に田島先生は現役のジョッキーのような感覚で話をされる。その話がまた面白い。

 例えば、ゴールドシップのような気性の激しい馬に乗る際は「呼吸をしているのもバレないようにしてソロッと乗るんだ。たとえそれが馬にバレていたとしても、それぐらいの気持ちで乗ることが大事」と身ぶり手ぶりを交えて熱く語る。“俺ならこう乗る”と騎乗論を語るときは、一瞬にして勝負師の目に-。“必殺仕事人”の鋭い眼光はいまだ健在だ。

 また、騎手時代の秘話も楽しい。若きころの私はイイデセゾン&田島良保のコンビ(91年の牡馬クラシックは熱かった)に夢中だったが、当時のことをうかがうと「あのバ○馬な~。あの馬のおかげで腰をやられてな。レースに乗れないことはなかったけど、もう勘弁してほしかったから、ダービーの騎乗依頼は断った」と…。これにはつい、私も川島騎手も「ダービーですよ?しかも有力馬で」と突っ込んだが、氏は「あのときは柴田(政人)君がどうやって乗るのかな~と思いながら見ていた。(トウカイテイオーの)3着だったかな。よく我慢して乗っていたね」とまるでひとごと。呆気(あっけ)にとられたが、それも先生らしくて笑ってしまった。

 あっという間の2時間半。取材を終えて、単純に思った。「面白い!」。引退されたのだから、もちろん悠々自適に過ごしていただきたいが、競馬界にとって“レジェンド”の話に耳を傾けずにいるのはもったいない。これからもどんどん表舞台に出ていただき、ご意見番として活躍されることを切に願う。(デイリースポーツ・松浦孝司)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

オピニオンD最新ニュース

もっとみる

    ランキング

    主要ニュース

    リアルタイムランキング

    写真

    話題の写真ランキング

    注目トピックス