【サッカー】J2愛媛の躍進の要因とは

 今季のJ2リーグ戦も終盤戦に突入し、J1昇格争いが佳境に入ってきた。第36節終了時点の順位表を見てみると、大宮が首位を走り、2位が磐田。3位に好調の福岡が浮上して4位がC大阪と、J1経験クラブが上位を占めている。

 そんな中、興味深い存在が8位・愛媛だ。15勝8分け13敗で勝ち点53。勝ち点では6位・長崎、7位・千葉と並んでおり、J1昇格プレーオフ進出(3~6位)の可能性を十分に残している。

 06年のJ2昇格から10年目。愛媛はこれまで下位の常連だった。昨年度の営業収益5億7600万円はJ2の22クラブ中、20番目。資金的に恵まれず、ここ4年間の順位は15位、16位、17位、19位と下降線をたどっており、今季開幕前には「降格争い」を予想する関係者やサポーターの声も聞こえていた。

 それがどうだ。木山隆之監督(43)が就任した今季の愛媛は、躍動感あふれるサッカーで順調に勝ち点を積み重ねた。夏場にクラブ新記録の5連勝を含む9試合負けなしを記録。一気に昇格争いに加わった。

 躍進の要因は何か。木山監督は「この1年、我々がやってきたことはいくつかしかない。その中の一つが『5秒ルール』です」と明かす。

 「5秒ルール」とは、同監督が就任早々に掲げた守備の約束事で、ボールを取られたら複数の選手が猛然と相手を追い回し、5秒以内にボールを奪い返すというものだ。かつてグアルディオラ監督(現バイエルン監督)時代のバルセロナが、この「5秒ルール」を導入。黄金期を築いたチーム戦術の柱の一つとなったことで知られる。

 「5秒」という時間を設定することで、プレッシングに関わる選手の1歩目の反応が上がり、寄せのスピードや圧力が増した。ボールを奪い返せば素早く攻撃に転じ、奪えなくても相手の攻撃を遅らせ、その間に後方の守備陣形を整えられる。この「5秒」の意識付けによって生まれた攻守の切り替えの速さが、今季の愛媛の特徴だ。

 体力的にハードな「5秒ルール」を90分間継続するために、選手たちは冬場のトレーニングで過酷なメニューに取り組んだ。徹底的に走り込みを行い、練習場近くの砂浜でダッシュを繰り返した。GPS機能を使って走行距離やスプリント回数を計測する「トラッキングシステム」も導入。紅白戦や練習試合で選手個々のデータを取り、走ることへの意識を高めた。

 努力の成果が表れたここまでの戦い。木山監督は「体力が消耗する夏場もしっかりとやれていた。自分たちの武器になった」と、「5秒ルール」の完成度に自信をのぞかせる。

 現状では5位と6位の2枠を東京V、長崎、千葉、愛媛の4クラブで争う構図。ただ9位以下も追い上げてきており、昇格プレーオフ争いは大混戦の様相を呈している。

 ここからは未知の重圧がかかってくるだろう。DF西岡大輝(27)は「やることは変わらない。結束して前に進むだけ」。キャプテンのFW西田剛(29)は「このプレッシャーを楽しみたい」と言葉に力を込めた。「5秒」の攻防に集中する四国のオレンジ軍団が夢をつかむか、残り6試合の行方に注目だ。

(デイリースポーツ・浜村博文)

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