黒田がカープ復帰で生んだ効果

 10月7日のシーズン終了から62日後の決断だった。来季去就について広島・黒田博樹投手(40)は8日、交渉役の鈴木清明球団本部長(61)に電話で「来年もやります」と現役続行の意思を伝えた。8年ぶりの電撃復帰から1年。男気右腕が広島にもたらした効果とは何か-を考えたい。

 今季は、26試合の登板で11勝8敗、防御率2・55の成績。「最低限のノルマ」としていた10勝をクリアした。加えて中4日や、節目登板での好投、熱投。シーズン終盤は「大地(大瀬良)やザキ(中崎)の負担を、少しでも減らしてやりたい」と、首脳陣に続投志願する場面も多かった。

 グラウンドでは常に闘争心を示した。10月4日の阪神戦(甲子園)。負けたら4位が確定する試合で、8回1/3を無失点と好投した。気迫の投球以上に、球場を沸かせたのが打席での執念。三回、追い込まれてから8球、ファウルで粘った。藤浪の150キロを超える直球に食らい付き、最後は見逃し三振に倒れたが“黒田の13球”に「野手が何も感じない訳がない」と緒方監督。直後、四回の攻撃で、一気に4点を奪った場面があった。

 登板した26試合、全てで「1球の重み」を体現。今季、主にバッテリーを組んだ石原も「1試合に懸ける姿勢。受けていても、見ている人も、感じるものがあったと思う。試合に入るまでの準備も、若い投手の勉強になることばかり」と言う。

 今季9勝を挙げた福井はシーズン中、黒田のブルペン見学や、助言もあって飛躍を遂げた。現役続行に「今年、変われたのは黒田さんの言葉、後押しがあったから。もっと勉強して見習っていきたい」と歓迎。正捕手の座を目指す会沢も「来年は毎回、バッテリーを組めるように頑張りたい」と、レジェンド右腕から技術を吸収する意気込みを明かした。

 グラウンドだけではない。ベンチ裏のルーティンも徹底する。球団スタッフは「朝、早く来てランニングや、ストレッチを欠かさない。野球に取り組む姿勢、考え方は見ているだけで勉強になる」と証言。マウンドに立つために、準備には相当な時間をかけている。球種や投球術、マウンドでの精神面など、若い選手には自身の経験、助言を惜しむことなく伝えているという。

 営業面でも効果は絶大だった。広島の観客動員は、昨年が過去最多の190万4781人。今年は昨年を上回るハイペースで、初の200万人の大台を突破。最終的に211万266人となった。グッズ売り上げも30%~40%増が見込まれている。効果は本拠地だけにとどまらず、他球場も“黒田効果”で観客動員数を伸ばした。セ・パ交流戦では、試合開催がなかった球団から、悔しがられることもあったという。

 また、各チームの強打者が対戦を心待ちにし、打倒黒田に闘志を燃やした。通称「フロントドア」や「バックドア」は打者を驚かせ、投手には新たなスタイルとして、生きる教材になった。8年ぶりのカープ復帰は球団、いや球界に有形無形の効果を生んだ。来季現役続行を決め、41歳となる2016年シーズン。黒田の男気は再び球界に、大きな影響を及ぼすことになりそうだ。(デイリースポーツ・田中政行)

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