ロイヤルズが世界一への挑戦権獲得

 弱小球団と言われ続けたロイヤルズが15日(米国時間)、本拠地コーフマン・スタジアムでオリオールズに競り勝ち、4連勝で85年以来、29年ぶり2回目のワールドシリーズ(WS)進出を決めた。

 今ポストシーズンはメジャー新記録となる無傷の8連勝。21日(同米国時間)から始まるWSではジャイアンツと対決する。

 ロイヤルズと聞くと、私は1人の助っ人を思い出す。82年の1シーズンだけ大洋ホエールズ(現DeNA)に在籍したM・ラム内野手(一塁)兼外野手をである。

 彼は大洋退団後、86年にロイヤルズの打撃コーチに就任した。ハワイ出身の左投げ左打ちで、期待した長打力はなかったが、退団後は私にとって、メジャーの貴重な情報源であった。

 95年3月、サラソタでキャンプを張るホワイトソックスに、マイナー・リーグの巡回コーチだったラムを訪ねた。

 午後、ホワイトソックス対ヤンキースのオープン戦が予定されていた。この年は大リーグ選手会によるスト中とあって、目ぼしい選手はおらず、OBたちをかき集めた粗末なチームだった。

 試合前の練習を見ていたとき、私の目の前を、色の黒いスキンヘッドの選手が通りかかった。アッと思った。まぎれもなく元巨人軍のヘンリー・コトー(94年在籍)だった。

 思いもかけぬ出会いだった。コトーは左翼手・3番としてスタメンだった。私の記憶には、シーズン始めの頃は外角変化球にモロかったが、なんとかこなせかけた終わりの時期の姿が交錯しながら残っていた。

 走者一塁でコトーが打席に入った。外角低目のスライダーに、コトーのバットが一閃した。打球はライナーとなって大きく右中間を破り、一塁走者がホームインした。

 だが、「うまく打ったが、このレベルの投手相手では打って当然」というのが私の正直な感想だった。

 久しぶりに知人のトレーナーを訪ね、彼の部屋で待っていた。目の前を再び通ったのがコトーだった。「ヘイ、ヘンリー」と声をかけた。足を止めたコトーに、「私を覚えているか」と言った。

 彼が巨人にいた時、グラウンドで何度か顔を合わせたが、言葉を交わしたのはほんの2、3度だ。「横浜ベイスターズの牛込だ」「ああ、覚えている」と話しながら部屋に入ってきて、日本語で「コンニチハ」と言った。

 私と会って日本での記憶が甦ったのか。表情をゆるめて部屋に入ってきた。

 「オープン戦のあと、メジャーと契約することに」という言葉は、かつては大リーグでプレーしたことがあるのだという、いわばコトーのプライドが言わせたものだった。

 私は話題を変えて、「あの二塁打はみごとだったな」「ああ、ありがとう」と、ホッとしたように言い、「打った球は外角のスライダーだ」と、誇らしげに言った。

 「日本でははじめ外角をスライダーで攻められ苦しんだよ。分かってはいたんだが、どうしても引っかけてしまう」「しかし、終わりごろはあの球をよく打ったじゃないか」「ああ、このままでは使ってもらえなくなると思って、ずいぶん工夫したんだが…」

 スライダーのいい投手相手の試合で、長嶋監督がコトーに代打を告げたシーンをふと思い出した。彼がメジャーと契約することはなかった。

 ロイヤルズからラム、そしてコトー。今回はまるで「三題噺」のようになってしまったが、今でもプライドをにじませた1人の男を思い出すのだ。

 さて、ロイヤルズとくれば、もう1人いる。ワールドシリーズ進出の立役者の一人、ドン・若松ベンチコーチである。

 彼は93年、ドジャース傘下3Aアルバカーキ-で、捕手として打率・337をマークした。その際、メジャー屈指の名トレーナー、シュナイダー氏から「大洋ホエールズに入団させて欲しい」と連絡があった。しかも拙宅に直接電話だった。ちょうど谷繁が伸び盛りのころで、残念ながらお断りした。

 その後、指導者として09年、大リーグ初の日系米国人としてシアトル・マリナーズ監督に就任した。今でも会えば必ず挨拶を交わす。

 この知的な人格者が、指揮官であるN・ヨスト監督の副官として85年以来、2回目の世界一制覇を目指す。忘れずに付け加えておきたい。

(デイリースポーツMLB解説委員・牛込惟浩)

  ◇  ◇

 牛込惟浩(うしごめ・ただひろ)1936年5月26日生まれ、78歳。東京都出身。早稲田大学を経て64年、大洋ホエールズに入団。渉外担当としてボイヤー、シピン、ポンセ、ローズなど日本球界で大活躍した助っ人たちを次々と獲得し、その確かな眼力でメジャー球界から「タッド」の愛称で親しまれた。2000年に横浜ベイスターズを退団。現在はデイリースポーツMLB解説委員。

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