10万粒の切符パンチくずで、まさかの力作……駅員3人が挑戦「IC化で将来、切符がなくなっても残れば」
「もう二度としない」という制作者コメントとともに、Osaka Metro西梅田駅(大阪市北区)に展示されている地下鉄車両のアート。切符を改札に通した際に切り取られる「パンチくず」約15万粒から成る驚異の作品だ。
今秋にはその情熱を継ぐ新作が完成予定。若き制作者らにその背景を訊いた。
■ 「二度としない」に挑む、2024年入社の若手トリオ西梅田駅中改札近くの通路「西梅田地下画廊」に展示中の「パンチくずアート」は、2015年当時、同駅助役だった山口雅博さんが約300時間かけて制作したもの。その力作がSNSで話題になり、2年後には「二度目やっちゃいました…」と約17万粒から成る列車の作品も加わった。
そんな膨大な時間と労力を要するアートに、約9年ぶりに自ら挑戦しているのが、同駅務係員の山本開晴さん(28)、尾西拓哉さん(29)、大国町駅務係員の作岡樹希哉さん(24)だ。
2024年秋入社の同期組で、3人とも西梅田駅で勤務していた2026年2月に「やってみたい」と制作を決意。作岡さんは「最初に山口さんの作品を見た時は、モノクロ写真かと思いました」と当時の衝撃を振り返る。
山口さんからは「やめた方がええで。後悔するで」と制止されつつも、作業しやすい両面テープの種類などコツを伝授してもらい、まずは先輩の作品より小さめの、Osaka Metro公式YouTube「Metro News」のキャラクター作品に挑戦。約1カ月半かけて5月に無事完成させたことで、更なる難関作品へ挑むこととなった。
■ 1行のズレ、家族の心配…ピンセットで紡ぐ地道な作業新作は「これ乗ってたな」と懐かしんでもらえるよう、かつての四つ橋線車両がモチーフ。サイズは約縦85cm×横120cm(9万9645粒の見込み)で、まずは車庫で実物を撮影し、アプリで白黒ドット絵に変換した設計図を作成した。
そして、パンチくずの表(灰色)・裏(黒)の色配置を確認しながら、ピンセットで模造紙の両面テープに貼る地道な作業が続く。
直径3mmのパンチくずを扱う気の遠くなるような工程だが、完成サイズを16等分し、1パーツずつ各自持ち帰って休憩時間や休日にも制作を重ねているという。
初期は1行ずれるミスや、咳き込みで形が崩れてしまうトラブルもあり、「リビングで黙々と作っていたら家族に『病んでるの?』と心配されて…(笑)」と日々奮闘中だ。
1パーツの制作に約8時間(!)かかりつつも、3カ月で7割が完成。「作業中は白黒だらけで今何を作っているのか分からなくなる時もありましたが、持ち寄ったものを離れて見てみたら一気に実感が湧きました。『小さな一粒が大きなアートになるんだ』と喜びを感じています」と手応えを語る。
■ 切符ならではの「今しかつくれない作品」を「足を止めたくなる駅」を掲げる「Osaka Metro」では、駅ごとの自主的な取り組みも大切にしている。今回は若手世代により、駅ならではの廃棄物を活用した唯一無二のアートが復活することとなった。
年々、改札のデジタル化などで切符の利用が減少し、パンチくずの量も10年前の約10分の1に激減しているため、他駅から回収したものも活用しているという。
今回の制作について、「今でも海外の方を含め多くの方が、山口さんの作品を見て驚かれているので、この作品をきっかけに広くOsaka Metroを知ってもらえれば」(作岡さん)
「作品が話題になって立ち止まってくれたらうれしいです。IC化で将来切符がなくなっても、今しか作れない思い出になったらいいですね」(山本さん)
「前の作品を見た友だちから、『Osaka Metroってこんなおもしろいことをやっているんだ』という反応がありました。『同期の3人ならできる!』という熱量で、完成への自信もあります」(尾西さん)と意欲を見せる3人。
かつて「もう二度としない」と言いつつ前言撤回した先輩に続き、10月末の完成予定に向けて、「西梅田地下画廊」の余白に貼られた「COMING SOON…」の文字へ期待が高まる。
取材・文・写真/塩屋薫
(Lmaga.jp)
