東京の芸人が嫌がる番組No.1…東野幸治が輝く関西ローカル「マルコポロリ」、お約束を拒否した番組作り

いま、関西ローカルのとある番組が全国の「お笑い通」や業界内でジワジワと話題になっている。「白い悪魔」の異名をとるMC・東野幸治の話芸によってゲストが1人残らず「丸裸」にされてしまう関西ローカルの番組『お笑いワイドショー マルコポロリ!』(カンテレ/毎週日曜昼1時59分~)は、現時点で最も尖ったお笑い番組と言っても過言ではないだろう。

『M-1グランプリ』王者になるはるか以前からウエストランド井口をイジり続けたり、ぼる塾をゲストに招きながら田辺さんの鉄板ギャグ「まぁね~」に一切振らなかったり・・・「お約束通りにならない」のが「お約束」であり、東京のバラエティでは間違いなくカットされる箇所こそが、この番組の真髄なのだ。

そんなクレイジーなTVショーはいかにして作られるのか。担当ディレクターの芳仲真雪子さんに訊いた。

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『お笑いワイドショー マルコポロリ!』

2006年4月から放送を開始。もともとはロケ企画や芸能ニュースなど、複数のコーナーによる番組構成だったが、3年ほど前より「ゲストとレギュラーがワンテーマで語るトークバラエティ」にシフト。最新回がTVerで視聴できるようになってからは全国のお笑いファンからも支持されはじめ、業界内からの注目度も高い。現在のレギュラー出演者は東野幸治、ほんこん、月亭方正、あいはら雅一(メッセンジャー)、シャンプーハット、月亭八光、ニッポンの社長。

===========■ 笑いという基本に立ちかえったら、東野さんの「毒」が増した──2006年放送開始で、もともとはロケ企画や芸能ニュースなど数々のコーナーを擁する総合バラエティから、「ゲストを招いてワンテーマで語ってもらう」というトーク・バラエティに変わっていったのは、どのような経緯だったのでしょうか。

私は3年前に別番組から異動してきたんですが、ちょうど同じ時期に、会社から「コアターゲットを意識した番組作りを」という命が下りまして。当時のチーフ演出・横田幸介(現在は4月スタートの新番組『アンタッチャブるTV』チーフ演出)の強い希望で、よりお笑いに特化しようという流れに変わっていったように思います。

──「お笑い」と「スタジオトーク」に特化したとたん、東野幸治さんの「狂人オーガナイザー」としての才気が炸裂したと。

各コーナーやVTRをやっていた時期も、いい意味で東野さんの「毒」みたいなものは、もちろん既にあったと思うんですが、スタジオでのトークが長くなることによって、さらにその部分が強く出るようになってきたのかなと。現在のスタイルになってからは、ほんこんさんをはじめとするレギュラーのみなさんの存在も大きいと感じます。

──ほんこんさんとあいはらさんが、東野さんが投げる球の名捕手であり名打者であるというわけですね。

毎回6名座っていただいているレギュラー陣が盛り上がった回のほうが、番組全体として爆発するんです。だから、レギュラー陣とゲストの方々をどう絡めたら「見たことのない化学反応」が起こるかを、まず第一に考えます。

■ 「突かれたら嫌なところ」をむき出しに、東京の芸人が嫌がる番組──「東京の若手は『宇宙で一番難しい番組』と言う」(見取り図リリー談)、「芸人みんな踏んづけられて帰る」(とにかく明るい安村談)などと言われ、東京の芸人さんにとって積極的に出たくはない番組と思われているようですが。

ゲストの芸人さんとの打合せのときに「いや、怖いですよ」とよく言われます(笑)。どこまで本気かはわからないですけど。たぶん「想定外のイジられ方をされる」ということなのかもしれないですね。

──自分の考えていたプランとは違う方向にいってしまうと。

東野さんを中心に、レギュラー陣のみなさんは、「突かれたら嫌なところ」を見つける天才なんだと思います。「そこ気づくんやな」って。普通の人はスルーするであろうポイントを見逃すことなく拾い上げて、どんどん広げていく。

そうすると、東京から来られたゲストの芸人さんを収録後にエレベーターまでお見送りするとき、大半の方がぐったりされていて(笑)。やはり、大阪という「アウェイ」での収録に臨むのは、一段階緊張感が違うのかもしれませんね。で、行ってみたらこういう人たちがいて。

──丸裸にされて。

むき出しにされて疲れ果てて帰っていくという(笑)。でも、出てくださる方みなさん、結果的にはすごくおもしろくやっていただいてると思うんですよ。必ず損はしないようにと、私たちも心がけています。決して丸投げするわけではないのですが、誰が来ても東野さんがおもしろくしてくれるという絶対的な信頼がありますし。

──視聴者としても、ゲストの芸人さんの「むき出し」の部分を1番期待しています。

「作られたキャラクター」を剥いだ「裏」を引き出すのがお得意な方々が集まっているので、番組としてもそこに力を入れたいんですよね。打合せでゲストの方々に「何か準備していくことはありますか?」と聞かれるんですが、「そのまま何も考えずに来てください」とお伝えします。

「台本は覚えなくていいですし、東野さんに聞かれたことに答えるぐらいの、トークを楽しむぐらいの気持ちでいていただければ」と。「これをしゃべらなきゃ」みたいな感じで考えながら来ちゃうと、人間味が出ないと思うので。

──「人間ドキュメンタリー」の側面もあるというか、それまでよく知らなかったけれど『マルコポロリ!』を見て「この人おもしろいな」と、ゲストの魅力に気づくケースも多そうです。

そういう役割を担えたらうれしいですね。今までとは違う部分が見えて、ゲストの方を好きな方が増えてくれたなら、とても光栄なことです。

■ 東野さんは「キラキラしてる人」に興味がない!?──逆に、永野さんのようにがっつり適応して、大跳ねする東京の芸人さんもいますね。

永野さんが大活躍された「グレープカンパニー徹底解剖SP」は、けっこう反響が大きかったですね。あの回が初めて、関西以外でも話題になったんじゃないかな。

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「グレープカンパニー徹底解剖SP」

2022年7月24日放送。グレープカンパニー所属の芸人である永野、あぁ~しらき、口笛なるお、お見送り芸人しんいち、ランジャタイがゲスト出演。永野の狂気と闇がスタジオを圧倒し、ボケを放棄して普通のことしか言わない口笛なるおさえも「狂人祭りに迷い込んだ社会人」として爆笑をさらった、伝説のカオス回。

===========わらふぢなるおの口笛なるおさんが1番大事なところで噛んで「靴」を「クソ」と言い間違えたりと、失敗したのがめっちゃおもしろくて。

別の回(※2022年10月23日放送「お見送り芸人しんいち&とZAZYの未来を考えるSP」)で再び永野さんとお見送り芸人しんいちさんを呼んだときに、あえてなるおさんではなく、相方のふぢわらさんのほうを呼んでみたら、これまたいろんな意味ですごくおもしろかった。それで満を持して3月19日に「わらふぢなるお救済SP」を放送する運びとなりました。お見送り芸人しんいちさんからの猛プッシュもいただきまして(笑)。

──毎回、ゲストとテーマのチョイスが絶妙ですが、どうやって見つけてくるんですか?

「この人おもしろいな」「『マルコポロリ!』に来たら跳ねるんじゃないかな」という芸人さんを常にチェックしていて、その方を呼びたいから、それに合ったテーマを考えるという感じです。先輩方からよく怒られるんですが、私、地上波のテレビをあまり見れていないんですよ。バラエティ番組を追い切れていない代わりに、といってはなんですが、スキマ時間に芸人さんのラジオやYouTubeはチェックしてます。あくまでも私の場合ですが。

──YouTubeだと、テレビとは違ったところが見えたりも?

YouTubeのカメラの前だとみなさん気負っていないので、自然体の姿が見えるんですよね。200回ぐらいしか再生されてない芸人さんの動画とかも見てます。

──東京の地上波のバラエティにガンガン出ているような人気者はあまり呼ばない?

もちろん、今旬の方となるとスケジュール的に難しいというのもありますが、東野さんをはじめ、レギュラー陣のみなさんはキラキラした方にあまり興味がないような気がして (笑)。ただ、「東京でできないことをやってやろう」みたいな気持ちはまったくないんです。ひたすら自分たちがおもしろいと思った方に来ていただいているだけで。

「目玉になる人おらんやん」と言われたとしても、「大丈夫。『マルコポロリ!』はそれでいいんです」というスタンスです。幸いOAも配信も、ゲストによってそんなに数字に変動があるわけではないので、このまま『マルコポロリ!』という「器」を好きになってくださる方が増えていくのが1番うれしいです。

■ ぐちゃぐちゃにしてもらうために作る台本──番組作りにおいて、1番気をつけていることは何ですか?

ほかの番組がどうかわからないですけど、けっこう各回担当のディレクターの意見を尊重してもらえるんですよ。キャスティングも、台本作りも、再現VTRの内容も、編集も。もちろんチーフ演出やプロデューサーが最終チェックをしますが。ツイッターで手厳しい意見を見ると、めっちゃ落ち込みます。誰のせいにもできない。自分のせいなので。

──「自由」とセットで「責任」も伴うと。

基本的には演者のみなさんのおもしろさを、そのまま届けたいと思っています。順番を入れ替える小細工みたいな編集は基本は加えたくないですし、あまりカットも入れたくない。あの空間で起こったことを、ライブ感そのままに伝えたい。カメラがブワッて揺れてる映像とかも、そのまま使うことも。それが「本当」なので。

──台本はどうやって作るんですか?

キャスティングが決まったら、作家さん含め、スタッフ間でリサーチはみっちりやるんですが、ゲストの方々との打ち合わせは各々1時間ずつぐらい。そこでエピソードを聞き出して、台本を作ります。できるだけいっぱい材料を並べておいて、本番直前の打合せで東野さんに目を通していただき、そのなかでおもしろいと思ってくださるポイントを拾っていただけたら、という意味の台本ですね。

──「段取り」よりも、その場で生まれた「グルーヴ」を大事にしているんだろうな、というのが、見ていて伝わってきます。

台本は1本につきだいたい20ページぐらいの分量があります。でも「台本通りにやってください」というのはもちろんなくて、台本をぐちゃぐちゃにしてもらうために作ってる台本というか。

──演者の皆さんの話芸に加え、ツッコミや補足として入る、クレイジーなテロップも重要ですよね。品川庄司・品川さんに「東野の壊れないおもちゃ」、ウエストランド・井口さんに「最近見つけた壊れないおもちゃ」、ZAZYさんに「情緒がヤバい怪人」、番組の世界観を表した「最悪のガラクタ廃棄工場」・・・そんなテロップつける番組、ほかにないですよ。

右下に出るテロップを考えるのがいちばん苦労しますね。台本作るとか、編集するより頭を使います。出し方も、右側からピョッて出すのがいいのか、バーン!と板付きで出すほうがいいのか、とか。文言、出し方、SE(音効)、どれにするかで、毎回すごく悩みます。考えても考えても正解がないので。

■ 『お笑い向上委員会』は総合格闘技、『マルコポロリ!』は地下格闘技?──コンプライアンスが厳しいこのご時世に、けっこうギリギリのところを攻めてますよね。関西以外の視聴者による「この番組は狂ってる。関東で流せるわけがない」というような感想もツイッターで散見されました。

関西弁ってキツく聞こえるんでしょうね。そのうえみなさん真剣勝負で「闘い」をやっていらっしゃるので。

──パンサー・向井さんが「『さんまのお笑い向上委員会』は総合格闘技。『マルコポロリ!』は地下格闘技」と発言されていたとか。

ありがたいですね。そういう、「『マルコポロリ!』にしかない緊張感」ゆえなのか、収録中は絶え間なくおもしろいんです。「これ、編集せずに流してもぜんぜんおもしろいんじゃないか?」と毎回思ってます。

──「東野幸治 被害者の会」での、品川さんの「死ぬまでイジってよ。俺の墓にしょんべんしてくれ」と、ぼる塾・あんりさんの「記憶がない。ただ収録終わりに体が熱かった」などは、「地下格闘技」の緊張感の中でなければ出てこなかったキラー・フレーズだと思います。

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「東野幸治 被害者の会」

2021年4月25日放送。当番組の内外で東野幸治にイジられ続けたメッセンジャー・黒田、品川庄司・品川、ぼる塾がゲスト出演。体が東野のイジりを欲するように「調教」された品川と、東野からの偏愛を一手に受けるあんりによる「魂の叫び」が響き渡った。好評につき別ゲストによる続編が2022年にも放送された。

===========東野さんももちろんプロなので、本当に言ってはいけないことは当然おっしゃらない。ちゃんと放送に耐えうるところを攻めていただいてるとは思うんです。番組としては、皆さんに損がかからない範囲で演者さんの感覚を大事にして、ギリギリを攻めていくというスタンスですね。

■ 高齢化バラエティ『マルコポロリ!』の未来は・・・──番組としてのこれからの展望を聞かせてください。

先日、「フワちゃんと仲間たち」(※2月26日放送)収録時の感想をフワちゃんがラジオで語られていたのですが、「なんでマルコポロリはパネラーが全員おじさんなんだ!」と言われて、ハッとしたんです。たしかに、ほかのバラエティ番組って若手で勢いのある芸人さんだったり、若い女性のタレントさんがいらっしゃいますよね。でも『マルコポロリ!』は全員おじさん世代です(笑)。

──計算してみたところ、現在のレギュラー陣の平均年齢は47.7歳でした。

ニッポンの社長さんがだいぶ平均年齢を下げてはいますが、アラフィフ、アラ還の芸人さんがレギュラーで6人も座ってるというのは、「何の意味があるんだ?」と思われる方がいるかもしれませんが、実はそこが強みですよね。東野さんが以前、この番組を「高齢化バラエティ」と言っておられましたけど(笑)。

──この番組がすごいのは、レギュラーのみなさんが歳を重ねれば重ねるほど、ますますおもしろくなっていきそうなところですよね。

みなさんそれぞれに「色」や「味」があるので、それぞれのものを出してほしいと思っています。積み重ねてきたものがおもしろい方たちなので。何度もご出演いただき、『マルコポロリ!』で激推ししている三浦マイルドさんも、ここからもっと輝いてほしいです。

──『マルコポロリ!』の「コアターゲット」は、どういった層なんでしょうか?

普通、「コアターゲット」を意識するときって、なるべく若年層の視聴者を取り込もうとするんですね。だから「高齢化バラエティ」であるこの番組は、本来のやり方からはズレてるんですよ。でも、これが『マルコポロリ!』のコア戦略なんだと思います。

──なるほど。年齢や性別などの属性による識別ではなくて、「芯からの笑いを欲する人」がコアであると。今後の目標は?

「ブレずに、終わるまで走り続けること」です。東野さんやほんこんさんが「もう引退や」って言うまで、この「色」でやり続けるのが目標です。せっかく関西以外の方にも見ていただけるようになったので、このままのおもしろさでいけたらな、と思っています。

取材・文/佐野華英

(Lmaga.jp)

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