大阪の本屋が閉店、シャッターに貼られた「手紙」に50万人が共感→店主の意外な「人間関係」が明らかに

出版不況により地域密着型の書店の閉店が相次ぐなか、70年以上続いた大阪・阿倍野区の本屋「河堀口(こぼれぐち)書店」が、店主急逝のためひっそりと閉店した。そこから約2カ月、ある1枚の写真がSNS上で話題となり、6.6万リツイート、50万いいねの反響を呼んだ。

話題となった青谷 建(@tak_eru)さんのツイートには、「近所の本屋さん。ネットで買えない素晴らしさがこの本屋にはあったんだろうね。」の言葉とともに、1枚の写真がアップされた。それは、締め切ったシャッターに貼り付けられた店主宛のメッセージで、「3代でお世話になりました」「おばあちゃんが大好きでした」など、さまざまな思いが記されていた。

これに対しSNSでは、「本屋さんは本を売るのではなく、本の楽しさを教えてくれる場所」「便利さでは補えない大切なものがあるよね」「小さな本屋さんがここまで生き残っていた理由を思わせられます」「久しぶりにネットじゃなくて本屋さんに行きたいと思った」など、2800件以上のコメントが寄せられている。

82才で亡くなる直前まで店に立ち続けた店主は、さぞかし明るく元気なおばあちゃんだったのだろう。しかし今回、シャッターに「閉店のお知らせ」を貼ったという店主の甥・片野田旨侶さんにお話を伺うと、「そんな人ではなかったから驚いている」と意外な答えが返ってきた。

取材・文/Lmaga.jp編集部

■明かさなかった本当の想い「うちはお父さんがいないから・・・」──まず、70年以上続いた「河堀口書店」の歴史について教えてください。

祖父が病死し、祖母(店主の母)が家族を養うために始めました。勤勉だった叔母は、同志社大学を出た後に大手商社に勤めたんですが、27才で退職して書店を手伝い始めました。何も言わないけど、お母さんを助けなきゃと思ってたんでしょうね。祖母が身体を壊してからは20年以上、1人で店を守っていました。

──近年は本屋が減少していくなか、苦労も多かったのでは。

私の父(店主の兄)が、「年金暮らしできるんやからもうやめたら」って何度も言うてたんですけど、本人はそんな気もなく。なんかね、叔母なりに続ける意味があったんだと思いますよ。定期購読をしてくれてるお店へは、毎日歩いて配達していましたし。

──真面目な方だったんですね。

弱音、愚痴、不平不満、ため息さえ聞いたことはないです。かといって我慢してる感じもなく、本人はそれが当たり前だと思っているようで。父いわく、子どもの頃に「うちはお父さんがいないんだから、しっかりしようね」って言うてたらしいです。

■店の片付けをしていると・・・意外だった人間関係──お客さんとの関係はどうでしたか?

いわゆる「ベタな大阪のおばちゃん」っていう感じではなく、よく喋るんやけど、ベタベタしない感じ。地味やし、地道やし、実直やし。とにかく控えめで、性格的にはそこまでお客さんと密接に関わってるというイメージはなかったですね。

──だとしたら、あのような手紙は意外だったのでは。

そうなんです。でもなにか伝わっていたんかもなあ。叔母が亡くなってから、私がシャッターを開けて店の片付けをしていると、みんなが覗いて話かけてくれるんです。街の人全員知ってるんちゃうかってくらい、みんなが叔母のことを心配してくれて。

亡くなったことを伝えると、昔の話をしてくれたり、泣いてくれたりね。強面のにいちゃんから「昔から買わしてもらってました」とか、今回お願いした葬儀屋さんは、叔母に勧められて買った本を棺のなかに入れたいと言ってくださって。

──ご本人にとって当たり前にやってきたことが、みんなの心にはちゃんと残っていた。それにしても、今の状況を知ったらびっくりされるんじゃないでしょうか?

お店にクレカ決済すらなかった完全アナログ人間だったので・・・。きっと「やめてやめて!」と恥ずかしがってますよ(笑)。主張しないタイプで、写真も全然ないんですよ。せめて仕事中のうしろ姿だけでも撮っておけばよかったです。

■デジタルのなかで知った、予想外の反応──青谷 建さんのツイートをきっかけに、多くの声が寄せられました。

まさか、デジタルとは対照的だった叔母がきっかけで、こんなことになるとは・・・。面白いですよね、みんなSNSも楽しんで、本もダウンロードしてるんだけど、ああいうアナログの実店舗がなくなるのはすごく寂しいっていうのをネットで嘆いてくれる。それぞれが自分の記憶と重ね合わせてるのかもしれないですね。

叔母が亡くなったときは本当に悲しかったんですけど、周りの人のそういう声を聞いたり、全く知らない人が労ってくれたり・・・本当に癒やされました。あと驚いたことに、建さんのご友人が私たちの親戚だったということも分かって、SNSってすごいなと。

──では最後に、叔母さまへなにか伝えたいことはありますか?

祖母や祖父が「よく頑張ったね。早くこっちおいで」って連れて行ってくれたんやと思います。もうこちらの世界は心配せず、ゆっくり休んでほしいですね。

■50万人が共感「燃え尽きてない」今回、ツイートを投稿した青谷?建(アカウント名「takeru aotani」)さんにも話を訊いた。

──撮影当時の状況や、ツイートされた経緯を教えてください。

僕の奥さんが地元の人で、初めて連れてきてもらったんです。歩いていたらこのメッセージを見つけて。読書家の友人が「最近本屋さんがなくなって寂しい」と言っていたので、これは絶対に知らせたいと思って連絡したら、彼から「これはすごい写真だから、ツイッターにあげるべきだ」と。

写真というより、あのなかの情報の濃さですよね。それにすごく感動して。デジタルのやりとりでは絶対に生まれないメッセージやなと。それが50万人の共感なのではないか、だったら捨てたもんじゃない、まだ火は燃え尽きてないなと感じましたね。

──コメントも多く、かなりの反響がありました。

純粋に友人に伝えたいと思ったことが、大事になって驚いています。あと、批判的なコメントがなかったんですよね。それは店主さんの人柄で、あそこ(シャッターに貼られた手紙)に絶対偽りはない。もっと多くの声が広がってるような気さえします。

たまたまこのタイミングで、初めて来た場所で、あの道を通って、友人から言われて投稿して、20年以上前に飲み屋で知り合った人が店主の親戚の方で・・・。僕のなかでは、ただバズっただけではなくなっています(笑)

近所の喫茶店のママは、「さっぱりとして、ぴしっと一線通った方。理知的で、無駄がなく、媚びることもなく、静かに自分の生き方を貫徹されているのが、いろんなところから感じられました。みんな感謝してますよ。嘘もお世辞もなく、素晴らしかった。ゆっくりしてほしいと思います」と店主への思いを口にした。

ネット注文が急速に普及する一方、人と人の関係が希薄になった昨今。70年以上、「町の書店」であり続けた店主とお客さんとの関係は、一辺倒のネット注文では遠く及ばないほど「幸せな関係」だったに違いない。

(Lmaga.jp)

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