映画「フォルトゥナの瞳」の三木孝浩監督、「日常では得られない自分への問いかけ」

青春映画の名手・三木孝浩監督が、神木隆之介&有村架純で撮った映画『フォルトゥナの瞳』。本作では、他人の死が見えてしまうという不思議な力を持ってしまった青年が、最愛の女性の「死」に立ち向かう姿を描いている。「普段起こり得ない物語を観ることで、日常では得られない問いかけを自分にできる」と語る三木監督に、評論家・田辺ユウキが話を訊いた。

取材/田辺ユウキ

「人間の反応に共感できないと白けてしまう」(三木監督)

──神木隆之介さん演じる主人公・木山慎一郎ですが、「他人の死の運命が見えてしまう」という本作におけるファンタジー要素をすべて背負ったキャラクターですね。

そういうキャラクターという意味で、神木くんの演技の負担は大きかったはずです。ただ、ちょっとした驚き、気持ちの揺らぎも的確に表現できていましたし、この難しい役を見事に演じ抜いてくれました。この映画には、神木くんの運動神経の良さが映し出されています。彼は、自分のイメージと体の動きを完璧にコントロールしながらお芝居を作っていて、たとえば神木くんが出演していた映画『るろうに剣心』は、まさにそれが前面に出た作品でした。

──確かにそうですよね。

ギアの入れ方、表現のコントロールの仕方、芝居に向き合う姿勢、オンとオフの切り替え方。どれもさすがだなと思いました。本番に入るときの鬼気迫る感じなんか、ゾクッときますよ。

──その一方で、有村架純さんが演じた桐生葵は、本当に普通の子。彼女は、携帯電話ショップの店員で、客として訪れた慎一郎とそこで出会うのですが、彼が店長を務める車屋に突然来て、「住所を調べて来ちゃいました。これって個人情報保護法違反ですよね」とテヘッと笑うところとか、「こういうことを言う子、いそう!」となりました(笑)。

たしかに(笑)。僕は最初、葵に関してもファンタジー的な要素を感じていたんです。でも有村さんは本読みの段階で、近くにいそうな普通にかわらしい女性像で役を作ってきたんです。あれは良い裏切りでしたね。その何気なさに、慎一郎は心惹かれて、守りたくなる。有村さんの役作りには、映画的に助けられました。

──ファンタジー要素を一身に背負った慎一郎を前にした、葵の普通の反応が良いんですよね。そもそも映画って、物語がフィクションであればあるほど面白いもの。ただ、それに直面する人物の感情に嘘があると白けてしまいますよね。

まさに、おっしゃる通りです。ファンタジーというフィクションを描くからこそ、リアクションのリアリティが重要でした。それを特に感じたのは、『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』のときです。

──福士蒼汰さん、小松菜奈さん出演の2016年作品ですね。

あの作品はまさにファンタジーですが、物語として成立できた要因は、キャラクターの感情にリアリティがきっちりあったからなんです。人間の反応に対して共感できないと、観ている人は白けてしまう。ありえないようなことが起きても、「もしかして、こういうことがあるかも」と一瞬でも思わせたい。それはやはり、役者さんたちの芝居の力に頼る部分が大きいです。

「選択を怠れば、前にすら進めません」(三木監督)

──本作はファンタジーだからこそ、監督の解釈を伺いたい部分がひとつあるんです。慎一郎は他人の死の運命が見えるので、ついその人を救おうとしてしまいます。ただそうすることで、別の誰かの運命が変わってしまう恐れがありますよね。

まさに、『バタフライ・エフェクト』(2005年)で語られた構造ですよね。誰かを救った結果、別の誰かを不幸にするんじゃないかという。でも、人の運命が見えてしまったその瞬間は、何が正しい行動なのか分からないと思うんです。

──なるほど。

初めて『フォルトゥナの瞳』の原作を読んだとき、東日本大震災の特番がたくさんやっていた時期でした。そのとき、ある番組で誰かを助けた人たちを取り上げていて。でも僕はこう思ったんです。その裏側にはきっと、人知れず誰かを救った人も多くいたんじゃないかって。僕らの日常は、そういう誰かによって生かされているのかも知れない。気づかないところで行動を起こしている人が必ずいる。その一方で自分は、危機的状況が目の前で起こったら行動に移せるのか。そういう自問自答を繰りかえし、「これは映画にしたい」と考えたんです。

──慎一郎が誰かの運命を変えると、ある現象が起こります。それこそ、人の運命を変えてしまったことへの功罪である気がするんです。彼がすべてを背負いこむから、誰も傷つくことなく、全員救われるんじゃないかって。

確かにそう考えると、慎一郎って非常に切ないキャラクターだと思いませんか? 原作を読んだとき、まさに彼に切なさと尊さを感じました。だから今回の映画化に気持ちが乗ったんです。

──あと、人は日々何かを選択し、迷うからこそ1日でも多く生きられるんじゃないかとも思いました。そもそも僕らは毎日、危険を避けるという選択を必ず何度かおこなっていますし。

選択を怠れば、前にすら進めません。まさにそれがこの映画のテーマです。絶対に後悔がない、という生き方は難しい。選択する=後悔はつきまとうもの。その悔いの上で人生は成り立っていますよね。

──それって映画作りにも言えることですね。

それは常にありますよ。どんなに良いカットが撮れても、映画監督である以上、「こうすれば良かったんじゃないか」という欲は必ずありますし、逆にそれがないと映画は作れないでしょうし。「あぁ、さっきのシーンの撮影、OKしちゃったけど、もう1回と言っておいた方が良かったんじゃないか」とか(笑)。

──ハハハ(笑)。今回の作品で迷いが生じた瞬間はありましたか。

自分自身の作業の上ではもちろんありましたが、でも役者さんの芝居に関してはまったくありませんでした。みなさん安定感があったし、演出面での迷いはまったくなく、逆に助けられたことばかりでした。

──どんな物事でもそうですが、どうしても抗えない運命もありますよね。そういうとき、何を決断するのか。自分自身のあり方を問われる気がします。

大変な出来事が起こらないことが一番なのですが、現実はそうもいかない。だからこそ、考えておくことが必要。ファンタジー映画という、普段起こり得ない物語を観ることで、日常では得られない問いかけを自分にできると思います。

(Lmaga.jp)

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