希代の名馬コントレイルとの出会い 調教師としての道しるべに【福永祐一連載(終)】

 ベテランと呼べる域に入り、ますます円熟味を増していたデビュー24年目の2019年。福永は希代の名馬との出会いを果たした。

 その名はコントレイル。父にディープインパクトを持つ青鹿毛馬だ。2戦目の東スポ杯2歳Sこそ先約のラインベックに騎乗予定(前週に騎乗停止処分で結果的に騎乗できず)だったため乗れなかったが、それ以外の10戦全てで手綱を取ってきた。

 「40歳を超えていて、騎手人生も終盤。そのタイミングで現れてくれた、特別な宝物のような存在です」

 そう形容するスーパーホースは、福永が今まであと一歩届かなかった景色を見せてくれた。1998年のキングヘイローに始まり、12年ワールドエース、13年エピファネイア、15年リアルスティールと、過去18度の挑戦で4度の2着に泣いてきた皐月賞。コントレイルはその壁を打ち破り、福永に史上11人目のクラシック完全制覇という大記録をもたらした。

 ダービーは自身が制した2年前(ワグネリアン)とは違い、単勝1・4倍と圧倒的な1番人気に。胸の高鳴りとともに鞍上に降りかかるプレッシャー。それをもはね返す能力、そして自信があった。ライバルたちを一蹴したのちは、無観客開催で無人となったスタンドに一礼。感謝の気持ちを表した。

 菊花賞ではゴール前でアリストテレスとのマッチレースを、わずか首差制した。コントレイルを無敗の3冠馬に導いた福永は、史上最年長となる43歳での3冠を達成。「今までで一番競馬が楽しい。楽しんでやることが結果につながっています。ストレスを感じるのも、不安を持つのももったいない」。不惑を過ぎてして、充実ムードを漂わせていた。

 その後、コントレイルは勝ち星から遠ざかったが、引退レースの20年ジャパンCで有終Vを飾った。「今までの2年2カ月は夢のような時間でした。今までのジョッキー人生の全てをこの馬に注ぎ込みましたし、それに応えてくれました。素晴らしい馬と巡り合えました」。騎手人生の集大成とも言える相棒を、最後まで信じ抜いた。

 輝かしい成績を残したコントレイルも、決してデビュー前から終始何事もなく順調に来たわけではない。菊花賞の距離不安や、一時の不振。数々の困難を人馬一体で乗り越えてきた。

 調教師試験合格後、福永はこう話した。「一番初めから強い馬というのはほとんどいません。いろんな調教をしながら、一流の競走馬に導いていくものですが、そういった過程をコントレイルで経験させていただいたのは大きいです」。キャリアの最終盤で出会ったコントレイルの存在は、調教師・福永祐一の道しるべとなった。(終)

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