【競輪】滝沢正光校長インタビュー

 日本競輪学校(静岡県伊豆市)は2015年にデビューを目指す新人選手、男子107回(一般試験36人程度、特別試験若干名)女子108回(女子4期生。一般試験20人程度、特別試験若干名)生徒を19日から募集する。競輪は自転車競技の経験がなくても、努力次第でビッグマネーと名声を勝ち取れる。同校の滝沢正光校長(53)は実際に自転車未経験で入校し、たゆまぬ努力で競輪史に残る大選手になった。その滝沢校長に、明日の競輪界を担う人材について直撃した。

  ◇  ◇

 ‐今まで選手が競輪学校の校長になった例はありませんでした。滝沢校長が初めてです。やはり選手時代の実績、そして人望によるところが大きかったのでないでしょうか。

 「そんなことはありませんよ。教官が2年、校長になって間もなく3年です。とにかく前例がないものですから、私でいいのかと思いました。自分が一番びっくりしました」

 ‐この3年を振り返って。

 「なかなか思い通りいかないものですね(苦笑)。私の経験は伝えていますが、最終的には生徒一人一人の気持ちと感性の問題ですから。ただ、少しずつですが、理解はしてもらってます」

 ‐例えばプロ野球選手になるための第一歩が少年野球だったり、野球部だったりします。しかし競輪の場合、なかなか自転車部というのが少なく、間口から狭い気がします。

 「競輪学校に合格するためには自転車競技を経験している方が確かに有利です。しかし、そうでない人にも門戸は開かれています」

 ‐実際に校長も自転車ではなくバレーボール出身で、適性試験で入学しました。なぜ、競輪を最終的な“就職先”に選んだのでしょうか。

 「父親が大変な競輪ファンでしたからね。割と身近な存在だったことは確かです。高校卒業が近づいてきたときに、たまたまスポーツ新聞を広げたら“自転車に乗れなくても競輪選手になれる”という適性試験での入学案内の告知を見て『これだ!』と思いました」

 ‐それにしても競輪学校は今も昔も狭き門です(※1)。

 「私の期(43期)の適性での合格者は25人。これはかなり多い方で今の4倍以上です。当時の考え方がそうであって、今なら絶対合格していなかったと思います(笑)」

 ‐ほかに競輪選手に適しているスポーツを挙げるとすれば。

 「バレーボール出身者は特にオススメですね。飛んだり跳ねたり…。体のバネが鍛えられるというか。清嶋彰一さんもそうですし(※2)」

 「最近はスピードスケートですね。筋肉の使い方が似ているからでしょうか。実際にプロになっても実績を上げています。また、女子で目立つのが空手、テコンドーなどの格闘技系ですね。基礎体力ができているのかな。気持ち的にも一本芯が通っているようです」

 ‐性格的に選手向きというのは。

 「おおらかな人よりも、むしろ気が小さい心配性な人の方が準備をよくする分だけ向いているかもしれません。例えばこれだけ練習してもまだ足らないんじゃないかとか、いい意味での前向きさが必要です。どのスポーツでもそうですが、特に競輪は練習量がモノをいいます。実は私は常に不安を抱えて過ごしていましたから。自分は才能があるから練習しなくても大丈夫だという人よりも、まだこの程度では満足できないという考えを持っている人の方が成功しています」

 ‐競輪学校は全寮制で、デビューするまで1年間の訓練を受けなければなりません。

 「“修行の身”ですから、禁酒禁煙、携帯電話の使用も恋愛も禁止です。資格を取るために訓練を受けているのですから、まずはしっかり集中してもらわないと。強い気持ちで臨んでもらいたいですね」

 「でもきつい、つらいだけではありません。今は年齢制限はないので、幅広い層の仲間と知り合うことができます。同じ釜のメシを食った仲ということで、デビュー後も引退後も一生の付き合いになります」

 ‐貴重な1年間です。競輪以外に学べることも多いのでは。

 「いずれ引退して第2の人生を歩むことになるにしても『花嫁修業』ではないのですが、あの競輪学校の厳しい1年間を経験した、そしてプロのスポーツ選手として全うしたということが、その人の自信になれればうれしい。また雇用先から『競輪学校を卒業した人なら大丈夫』、そう言ってもらえるような学校にしたいですね。人間的な魅力のある選手の育成を目指しています。生徒にも人生のきっかけであったり、良き仲間との出会いの1年にしてほしいと言っています」

 ‐校長自身の競輪学校の思い出は。

 「あっという間でしたが、非常に濃縮された時間でしたね。いい思い出はほとんどありません。とにかく思い通りにいきませんでした。力は出せても自転車に伝えられないもどかしさは感じていました」

 ‐楽しかった思い出は。

 「今はないのですが当時は地元の方との交流ということで、盆踊り大会をやったときは楽しかったですね。あとはクリスマスパーティーだとか、月1回の映画鑑賞会だとか。今はバーベキューもありますし、余興大会も近々行われます」

 ‐週末などは学校近辺に限定されての外出も許可されるのに、校長は2回しか外出しなかったという逸話があります。

 「そうです。1回は友人が落車したので病院に見舞いに行ったのと、卒業間際に隣にあるサイクルスポーツセンターに行っただけです。気分転換で毎週外出している人もいましたが、私の場合は経験が浅かったので少しでも自転車に乗っていたかったですね。ほぼ毎週自主トレしてました。やはり気が小さいんでしょうね」

 ‐今の生徒と接してみて、自分たちの時代と違うなと思うことは。

 「すごく感じてますよ。ギラギラしている生徒が少ないですね。内面的に燃えている生徒はいるんでしょうが、表面に出ることがあまりありません。おとなしい生徒が多いですね。よく言えば“いい子”なんでしょうが」

 ‐逆にもどかしく感じるのでしょうか。

 「プロになって勝負の世界に足を踏み入れたときに、もっと自分を出した方がいいこともあります。自主トレひとつとっても、やれば強くなることは分かっているはずなのに、通常の訓練以外は自分の時間を過ごす生徒が多いですね。サッカーでいえばオフ・ザ・ボールです。ボールを持っていないときにどうすればいいか。訓練以外のときにどんなことをして競輪と向き合えるか。私たちの時代と違って、ガツガツするところを見せたがらないですから」

 ‐今風で言えば、クールなのでしょうか。

 「謙虚なのかな。我々のころは5しかやってなくても、10やったような顔をしていた方もいましたから(笑)。スマートなのが悪いとは言いませんが、もっとガツガツしてもいいと思います」

 ‐最近の若い子の特徴かもしれませんが、行動よりも先に頭で考えてしまうのでは。

 「やる前からこの練習はどんな効果があるのかと考えてしまう生徒が多いですね。与えられたことは一生懸命やりますよ。でも、それだけでいいのか。確かに競輪学校は集団練習です。一人一人が好きな練習をするというわけにはいきません。だから余計に自主性が必要です。自主性の強い生徒は強くなります」

 ‐そんな競輪学校に女子生徒が増えました。マスコミもこのガールズケイリン(※3)には注目しています。

 「102回生徒(女子1期生)よりも104回生徒(女子2期生)というように訓練強度を上げることによって、確実にレベルアップしています。今は3期生が在学していますが、1、2期生を基盤にして“もう少し(訓練の強度を)上げられるかもしれない”と見えてきたものもあります」

 ‐ただ、男子と女子では訓練の内容も違うし、接し方も異なるのでは。

 「私自身これまで女性と関わりの少ない人生を送ってきたので(笑)当初は戸惑いもありました。女子教育に携わっている方と懇親会を開くなどしてレクチャーも受けました。一方で気を使うあまり、頭でっかちになりすぎたと反省している部分もあります。とにかく初めてのことでしたから。今は教える方も肩の力が抜けて、いい雰囲気でやれています」

 ‐送り出す側として、ガールズケイリンに期待することは。

 「お金がかかっていますので“賭け”の対象としての人間的な成長、自覚、プライドを持つことは男子と同じです。レース形態でいえば、1期生より2期生の方が攻撃的なレースを展開しています。具体的に言えば動きが激しくなっています。男子のようなライン戦ではないので、攻撃的にレースを組み立てられる選手が出てきてほしいし、そんな選手を育てなければなりません」

 ‐今、校長の目前に選手になろうかどうか迷っている少年少女がいるとします。声をかけるとすれば。

 「“こんなやりがいのある仕事はないよ”と言いたいですね。自分の責任において、頑張れば頑張るほど答えがダイレクトに返ってきます。それが賞金にしても名声にしても。まずはやってみろよって。流した汗は絶対裏切りませんから、競輪は」

 ‐校長にとって競輪、競輪選手の魅力とは。

 「(競輪は)60年以上にも渡って支持されてきました。生意気ですが、私はそんなファンの思いを感じながら走らせていただいてまいりました。ほかのスポーツよりも選手とファンが熱いのは、大事なお金がかかっているからです。これは私の先輩の話です。本命、対抗ガチガチのラインに、売り出し中のマーク屋が競りかけに行きました。そのとき、超満員のスタンドが揺れたそうです。まさにバンクとスタンドが一体となった瞬間ではないでしょうか。人間と人間の戦いだけではない、えたいの知れないパワーが競輪にはあります。それにのみ込まれることもありますし、乗り越えて行くことで強くなることもあります」

 ‐今でこそ年齢層が高くなりましたが、そんなファンが競輪を支えてきました。

 「生徒には9着が分かっていても最後まで踏み続けろと指導しています。ファンは自分の買った選手しか見ていません。手を抜いてゴールしようものなら、それだけで頭に来ているはずです。常に反応があるんですね。でも、負けたからって駄目じゃない。ギャンブルだから、もうからないこともあります。だからこそ『今日は駄目だったけど、次はやってくれるんじゃないか』という走りをファンに残していかなければなりません」

 ‐同じ負けるにしても先行争いをしたり、競り負けて9着の方がファンも納得がいきます。

 「そんな走りを見せることが信頼につながります。『次こそはファンの期待に応えられるように頑張ろう』と必死で練習するでしょう。選手はファンに育ててもらうことで、高いパフォーマンスを演じることができます。大事なお金がかかっているだけに、人間と人間の深いつながりを持ったスポーツと言えます」

 ‐校長の好きな言葉に『一歩踏み込め、そこは極楽』があります。その意味とは。

 「高校時代のバレーの恩師の言葉です。現役時代は先行を基本に戦っていたのですが、なかなか最初の1歩(ひと踏み)が出ませんでした。いろんなことを考え過ぎてしまうからです。でも、1歩目を踏み出さないと2歩目もありません。結局それを押し出してくれたのが練習でした。練習の裏付けがあってこそでした」

 「やればやっただけ見返りがある、こんな分かりやすいスポーツはありません。バレーボールをしていたとはいえ、本当に不器用で運動神経も鈍いほうでした。ただ、自転車は乗れば乗った分だけ答えが出ました。最後は練習量です。それを信じていれば、間違いなく伸びます。運動神経の問題ではありません。やるかやらないかです。やる生徒は間違いなく成功します。情熱を持って練習すれば、必ず成功します。そうすることで、ビッグマネーや名声を得ることができます」

 ‐ただ、学校に入学することがゴールではありません。デビューしてからが勝負です。

 「今の子は頭がいいですから、これをしたらこうなるという答えが出してしまっています。明かりがついてすでに舗装された道しか歩まない。自分で切り開こうとしません。石橋だって、たたき過ぎれば割れたりしますよ。私はファンをびっくりさせたいがために“えっ、こんなところから先行するの?”というところから仕掛けたりしていました。いい意味でファンを驚かせてほしい。スーパールーキーが出てきてほしいですね」

 ‐今の選手が個性的でないとは言いません。でも、滝沢校長の時代は選手の生き様がバンクに出ていたような気がします。中野浩一さん、井上茂徳さん、清嶋さん…。

 「昔の選手はバンク外で不器用な人が多かったので、その不器用さが逆にレースで緊迫感を生んだのかもしれません。競輪以外でも戦っているようでしたね。それがファンに伝わったから面白かったのでしょう。今の選手は頭がいいし、スマートなので使い分けが上手ですね。でも、ギラギラしたものがもっと全面に出れば、よりエキサイティングなレースが提供できるでしょう」

  ◇  ◇

 ※1 男子は36人の定員に101回生453人、103回生412人、105回生374人の応募があった。女子は102回生(1期生)のみ36人で47人の応募、104回生(2期生)、106回生(3期生)は20人で43人、48人。

 ※2 適性出身で77年11月デビュー。先行を基本に活躍し、85、87年の日本選手権を制覇。07年引退。

 ※3 女子競輪は64年に廃止されたが、12年7月に復活。

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