映画「ストリート・キングダム」で中村獅童が演じた“伝説の男”…36歳で他界「お前はお前の踊りを踊れ」

 田口トモロヲ監督、宮藤官九郎脚本の映画「ストリート・キングダム 自分の音を鳴らせ。」が27日から公開される。1970年代後半から80年代にかけて隆盛となったインディーズ音楽シーンを舞台に、実在の人物をイメージした配役が注目されている。その中で、歌舞伎俳優・中村獅童が演じた役のモデルとなった伝説のミュージシャンに焦点を当て、その人物を描いた評伝の著者に話を聞いた。(文中敬称略)

 78年以降、独自のパンク・ロックを模索したムーブメント「東京ロッカーズ」の渦中にあった若者を演じた峯田和伸(モデルは原作の写真家・地引雄一)、若葉竜也(同・リザードのモモヨ)、吉岡里帆(同・ゼルダのチホ)の3人を軸にした青春映画。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟」主演の仲野太賀がザ・スターリンの遠藤ミチロウをモデルにした役を熱演するなど、群雄割拠の強烈な個性が交差する。その中で、獅童は「じゃがたら」(※80年代後半の活動後期はJAGATARA表記)というバンドのフロントマンだった江戸アケミ(本名・江戸正孝)をイメージした役に扮した。

 「じゃがたら 江戸アケミ、四万十川から」(スローガン発行)の著者・吉岡誠は試写を見終えると、「獅童さんにアケミさんがかなり憑依(ひょうい)していましたね」と実感を込めた。吉岡は68年生まれ。江戸の晩年となる88~89年のライブを体験した「ギリギリ間に合った世代」だ。古書店を営みながら、一ファンとして江戸の故郷である高知県・中村を旅して級友や知人、関係者から数多くの証言を聞き出し、メディアに残された発言、歌詞、当時の貴重な公演チラシや写真などで構成した本書を今年上梓した。

  吉岡は「2つの驚きが映画にはありました。じゃがたらは『東京ロッカーズ』ではないのですが、予想以上にアケミさんがフィーチャーされていたこと。もう一つは、時系列や事実関係がきちっと史実に沿っていたこと」と評した上で、「アケミさんが残したメッセージ『お前はお前の踊りを踊れ』『お前はお前のロックンロールをやれ』が映画のテーマになっていて、それが獅童さんのセリフで語られる。(副題の)『自分の音を鳴らせ』がまさにそうです。トモロヲさんもクドカンさんもアケミさんのことが好きだということに僕もシンパシーを感じましたし、この映画、実は“アケミの映画”なんじゃないかと勝手に解釈しました」と付け加えた。

 獅童はオールバックに口ひげという江戸に重なる風貌で峯田を相手に己の哲学を語る。さらに、江戸が作詞作曲して歌った代表曲の一つ「もうがまんできない」が終盤の挿入曲となり、登場人物たちがレゲエのリズムに乗って順番に口ずさむシーンがクライマックスになっている。

 江戸は1953年、高知県で生まれ育ち、上京後、82年に「暗黒大陸じゃがたら」名義でファースト・アルバム「南蛮渡来」をリリース。そのカリスマ性と多様な音楽性で注目されたが、精神のバランスを崩して84年に帰郷して療養。86年の再起から活動のピークを迎え、89年にメジャーデビューしたものの、90年1月27日、都内の自宅で事故死。36歳だった。

 吉岡は「初期のエログロ・パフォーマンス、一時休養、早死にした…という3点のトピックでアケミさんは語られがちで、それもまた本質ではあるけれど、実際は穏やかでインテリジェンスのある人だという部分を伝えたかった」と執筆の動機を明かす。 バブル景気の中、江戸には社会からはみ出した人たちへの視線があった。活動後期は東京ウォーターフロントの“オシャレ”な会場でライブを続けたが、MCでは「この建物を作っているのは誰だ?工事して働いていたおっちゃんたちだぞ。そこを忘れちゃダメなんだよ」と説き、横浜・寿町での「フリーコンサート」では酔ってステージに上がって来る地元の“おっちゃん”と抱き合って歌った。

  89年11月、記者は大阪・心斎橋のライブハウスで江戸の姿を最後に見た。音楽活動と並行して肉体労働者であることを引き締まった体で示し、作業員を指す“不適切用語”の漢字2文字を挙げて「〇〇を〇〇と呼んで何が悪い。俺も〇〇だ」と訴え、照れ隠しのダジャレも連発。口癖の「ナンのこっちゃい!」で自らにツッコんだ。

 それから2カ月後に江戸は他界。今年で36年になる。ちょうど人生分の年月が過ぎた。存命なら72歳。本人は伝説(幻想)になることを嫌ったが、世代を超えて作品は残り、今回、映画の公開と連動して東京・新宿のビームスジャパンで、江戸を撮り続けたカメラマン・松原研二の写真展が4月1日まで開催中だ。

 吉岡は「アケミという人がいて、こんな人生を送って、こんな音楽をやって、こんなことを言っていた…という事実を本で提示しました。それを受け取った若い人たちが自分で考えるきっかけになってくれたら。おそらく、トモロヲさんもそうじゃないかと思うんです」と公開迫る映画に共感を寄せた。

(デイリースポーツ/よろず~ニュース・北村 泰介)

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