入社して間もない若者が退職代行を利用する背景には“企業側”にも問題が?キャリアカウンセラーが解説
2025年も新年度が始まり、早2か月が経過した。今年度を騒がせているニュースのひとつが退職代行だろう。かつては特殊なケースで利用されるイメージだった退職代行サービスが、新入社員を含めた若者を中心に利用者を増やしている。若者の我慢が足りなくなっているのか、それともブラック企業が増加しているのだろうか。就職支援に携わるキャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞いた。
ー退職代行を利用する若者は増えているという実感はありますか?
明らかに増えていると実感しています。特に新年度が始まってしばらく経った頃や、大型連休明けなどに相談が集中する傾向が見られます。
以前は、深刻なハラスメントを受けていたり、会社との間に法的なトラブルを抱えていたりと、かなり追い詰められた状況での利用が主でした。しかし最近では、入社後数週間から数ヶ月といった比較的短期間で、「この会社は自分に合わない」と感じ、退職代行を1つの選択肢として気軽に考える若者が増えている印象です。
サービスの認知度が向上し、インターネットやSNSを通じて利用体験談などが簡単に手に入るようになったことで、心理的なハードルが下がったことも影響しているでしょう。
ー利用者が増えている背景は何でしょうか?
ひとつに、対面での込み入った交渉を苦手に感じる若者が増えている点があると考えます。LINEなどの非対面コミュニケーションに慣れているため、上司に直接退職の意向を伝え、理由を説明する場を避ける傾向があるのでしょう。
また、終身雇用制度や年功序列が崩れ、「会社が一生守ってくれるわけではない」という意識が高まっている点も挙げられます。それゆえに「このままでは将来が見えない」と早期に判断し、より自分に合った環境を求めて転職する動きが自然な選択肢になりつつあります。
ー退職代行サービスを利用するメリットはどんなものがありますか?
最も大きなメリットは、退職の意思を直接会社に伝える必要がないため、精神的なストレスやプレッシャーを大幅に軽減できる点でしょう。スムーズかつ確実に退職できる可能性が高いのもメリットです。
ただ、退職に関して会社と交渉する経験は、対人折衝能力や問題解決能力を養う貴重な機会でもあります。将来のキャリアを考えたとき、このような経験を重ねておくことは決して無駄ではありません。退職代行を利用することによって、その機会を失ってしまう点は、今後の成長機会という観点からも慎重に考えるべきでしょう。
ー企業側はどんな反応をしていますか?
「退職代行を使われてしまった」と困惑したり、ある種のショックを受けたりする企業もあります。直接コミュニケーションを取る機会がないまま社員が辞めていくことに、無力感や「なぜ相談してくれなかったのか」という疑問を感じる人事担当も少なくありません。
一方で、自社の労働環境やコミュニケーションのあり方、マネジメント体制を見直すきっかけになったと前向きに捉えている企業もあります。短期離職者が出た際、その背景に目を向けることは、企業がより良い組織を目指すうえでの重要なヒントとなります。
退職代行サービスの利用増加を、「若者の問題」として片付けるのではなく、企業側も自社の組織風土や従業員との向き合い方について真摯に考えるべき社会的なシグナルと捉える視点が今、求められています。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
本音と向き合い、“納得の一歩”を支え、「やりたいことがわからない」を力に変える、キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
