女優だってミーハーになっちゃう

 アジアの気鋭作家を集めた映画祭「第14回東京フィルメックス」が11月23日~12月1日、東京・有楽町朝日ホールなどで開催される。コンペティション部門で審査員の一人を務めるのは、女優・渡辺真起子。河瀬直美、小林政広、園子温監督作ら関わった作品の多くが国際映画祭で受賞するという“あげまん女優”として知られるが、その恩恵を受ける作品は?審査の行方が楽しみだ。

 同映画祭の作品選定は毎回、映画ツウをうならせるが、今年のコンペ作10本もいずれもファンの心をくすぐる作品ばかり。その中には同映画祭が2011年に始めた人材育成プロジェクト「タレント・キャンパス・トーキョー」出身者で、本年度のカンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞したシンガポールのアンソニー・チェン監督『ILO ILO(原題)』(13年)も含まれている。放流した鮭が大きく成長して戻ってきたごとく…だ。

 渡辺は「監督としてまだ(作風が)固まりきっていない若い才能に会えるのがこの映画祭の魅力。上映後のQ&Aも活発で、具体的に作品に切り込んで行く観客が多いので、私も横で聞いていて『なるほどな』と納得したり、『そうそう!あなた、いいこと言うね』と、作品を共有できる楽しみもある。質問に対してすっとぼける監督もいるけど(笑)、それも含めて一つの映画体験ですからね」と語る。

 渡辺が審査員を務めるのは、09年のゆうばり国際ファンタスティック映画祭のオフシアター・コンペティション部門以来、2度目。しかし日本で、映画祭に参加する意義と賞の価値をこれほど理解している女優は他にいないだろう。特に今年は、中野量太監督の初長編作『チチを撮りに』(12年)がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭で監督賞を受賞したことをきっかけに、ベルリン国際映画祭への選出、さらに自身も第55回アジア太平洋映画祭で最優秀助演女優賞を受賞と、あれよあれよと作品が世界中へと広がっていく様を体感したばかりだ。

 渡辺は「賞の影響力を知っている分、審査員の責任を感じます。私自身、いつも審査員に対して“きちんと選んで欲しいな”と思うし(苦笑)。でも、映画って撮影現場で起こったことすべてがフィルムに写っていると信じていて、それをお客さんも敏感にキャッチしていると思うんです。そういう事すべてが最終的に評価につながるのではないか?と思う。女優とか関係なく一観客の視点で賞を与えることができればと思いますね」と意気込みを語る。

 ちなみに渡辺は、今回特別招待作品として新作『ピクニック』が上映されるツァイ・ミンリャン監督の大ファン。同監督は今年のベネチア国際映画祭で本作をもって監督引退を明言したばかり。ファンとしては真実を知りたくヤキモキしている人も多いと思うが、渡辺は、台湾で開催中の第50回台北金馬奨で『チチを撮りに』が選出された際に遭遇し、突撃取材を敢行してきたという。「『あなたの映画に出られるかも?と夢見ながら生きてきたんですけど、監督を引退するって本当ですか?』と思わず聞いちゃった。でも答えは『神のみぞ知る』だって(笑)」。

 そして、ちゃっかりサインまでいただいたそうで、渡辺は「映画監督にサインをもらうなんて初めて」と照れ笑いする。観客のみならず、女優だって初心に戻ってミーハー心をさく裂させてしまうのがまた国際映画祭の魅力なのである。(映画ジャーナリスト・中山治美)

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