還暦・中村芝翫 成駒屋継ぐ三人息子への思い語った 等身大で挑む3度目のシェイクスピア劇で主演
歌舞伎俳優の中村芝翫(60)が今秋、シェイクスピア四大悲劇の最高峰「リア王」(9月6~22日、東京・新橋演舞場)に主演し、タイトルロールのリア王役を演じる。2018年の「オセロー」、22年の「夏の夜の夢」に続く3度目のシェイクスピア劇で、娘たちに国を譲って引退する老王役に挑む芝翫が、リア王と自身との共通点や、60代を迎えての心境、成駒屋を継ぐ三人息子への思いなどを語った。
「リア王」を演じるのは「まだまだ先」だと思っていた芝翫だが、昨年8月に勤め人なら定年退職する還暦を迎えた。周囲でも定年を迎え、再び学校に通ったり、リタイアしてのんびりしたりと「リセットボタンを押して変わって行く」同級生も何人かいるという。
そこで「どうバトンを渡したりだとか、老いていく自分をどう操っていくかとか、死に対する恐怖とかが、教科書のように書いてあるんじゃないかな」とテキストに向かい合い、「(自分たちの現状は)『リア王』のテーマに似ているところがありますよね。今の等身大の精神年齢でできるんじゃないかな」と我が身に引き寄せてみた。
また、リア王も芝翫も3人の子供がいるのは同じ。娘と息子、領国経営と歌舞伎の違いはあれど、テーマを子への事業継承と考えれば実は近い。
芝翫は息子の橋之助、福之助、歌之助に対して「成駒屋という老舗をちゃんと渡してやらなきゃいけない。企業形態であったり、いろんな商いの仕方をちゃんと話さなければいけない」という使命感を持ち、リア王のケースを「それ(事業継承)が思うようには進んでいかないということ」だととらえている。
シェイクスピア劇に挑む歌舞伎俳優は今も昔も多いが、若き日の芝翫は「踏み込んではいけない世界なのかな」と思っていた。それを変えたのは妻の三田寛子だった。松本白鸚の「マクベス」を夫妻で観劇した際、三田から「あなた、シェイクスピアをやりたいとか、あんまりそういうことを言わないわね」と言われ、「あ、やっていいんだ」と思ったという。
「オセロー」でシェイクスピア劇に初挑戦した時は「歌舞伎の台本に比べて文字の小さいこと。セリフの分量が多い。理解するのは大変でした」と苦闘した。それは「リア王」でも変わらない。「『リア王』の台本も膨大な数で、後から追われるような恐怖感はあります。1文字ずつ、1行ずつ、1ページずつ楽しんで読みほどいていく作業が楽しく思わないとできない」と格闘している。
多くのシェイクスピア劇同様、「リア王」にも先行する舞台や映像は多いが、芝翫は「余り拝見してない」という。
映画デビューとなった「ダウンタウン・ヒーローズ」(88年)に出演する際、山田洋次監督に「これから何号のキャンバスに絵を描くかは僕が決めるし、油絵であるか水彩であるか、絵の具の良しあしも君を見て僕が決めたいし、何を題材にして描きたいかは僕が決めるから、さらで来てほしい」と言われたからで、今は演出の井上尊晶氏の「安心してください。大丈夫ですよ」という言葉を「道しるべにして行こう」と思っている。
還暦に続き、3月には橋之助が元乃木坂46で俳優の能條愛未と結婚した。人生の節目を続けて迎え、60代をどう過ごすか。芝翫は「好奇心を絶やしたくはない。行動的に動きたいし、夢だとか理想をグレードアップして追いかけていくのが大事。まだまだ見たことがない自分の表現をやっていきたい」と、世界の拡張に意欲的だった。
◇中村芝翫(なかむら・しかん)1965年8月31日生まれ、東京都出身。屋号は成駒屋。七代目中村芝翫の次男。兄は九代目中村福助。70年、中村幸二(本名)の名で初舞台。80年、三代目中村橋之助襲名。88年、山田洋次監督「ダウンタウン・ヒーローズ」で映画デビュー。97年、NHK大河ドラマ「毛利元就」主演。2011年、日本芸術院賞。2016年10月、八代目中村芝翫襲名。立役として活躍し、当たり役は多い。妻はタレントの三田寛子。息子の中村橋之助、中村福之助、中村歌之助は歌舞伎俳優。身長178センチ。
◆リア王あらすじ 老境のブリテン王リア(中村芝翫)は国土を分割して3人の娘のうち自分を最も愛するものに多く分け与え、退位して静かな余生を送ろうと考える。美辞麗句を並べ立てる長女ゴネリル(松下由樹)と次女リーガン(朝月希和)に領土を譲り、率直な物言いの末娘コーディリア(井上小百合)を勘当するが、ゴネリルとリーガンは本性を現しリアを冷遇。失意のリアは正気を失い、荒野をさまよう。仏王に嫁いだコーディリアはリアを救うべく仏軍を率いてブリテンに上陸するが…。
