安田淳一監督 勧善懲悪コテコテ時代劇 100万円の赤字も「やることに意味がある」BS-TBSドラマ「心配無用ノ介天下御免」
BS-TBSのドラマ「心配無用ノ介天下御免」(木曜、後11・00)が現代では珍しいコテコテ時代劇として異彩を放っている。第48回日本アカデミー賞最優秀作品賞を獲得した映画「侍タイムスリッパー」のスピンオフで、2時間超の本編ではわずか7分の出番だった劇中劇の侍・心配無用ノ介(田村ツトム)が主人公。どれだけ成功しても「100万の赤字」の出血作ながら両作を手がけた安田淳一監督(59)は「やることに意味がある」と言い切る。時代劇への愛と遊び心が詰まった「メタ構造」も魅力の新感覚時代劇に込めた思いを聞いた。
正義の侍が悪党を成敗する勧善懲悪物語。王道中の王道な展開を安田監督は「狙いとしてやってる」とし、「頭空っぽにして見たらすごいベタな感じでしょ?」と笑う。
心配無用ノ介は「侍タイムスリッパー」で山口馬木也演じる主人公の侍・高坂新左衛門がタイムスリップした現代で出会う劇中劇の侍。映画ヒット後、舞台あいさつで「ご夫人方が田村さんに『京様~!』みたいな嬌声を上げはって。すごく人気あるんだな」と実感し、ドラマ化の企画が動き出した。
驚くのは、どれだけ成功しても100万円の赤字が確定しているという事実。全6話の構成で「BS-TBSさんが1カ月ぐらいかけてシミュレーションしてくれて『一番うまいこといったら100万円の損で済みます』って。最初は『10話で160万円の赤字です』って言われて…(笑)」
出血確定でも「やることに意味がある」と断言。根底にあるのは「『侍-』を応援してくれた皆さんへの恩返し」と、時代劇を未来へ残したいという願いだ。自らの提案で太秦映画村では久々の公開撮影も復活した。
「損を分かってて皆やってる。古い人には懐かしんでもらって、若い人には『何これ?』って思ってもらう素地を作っておかないと時代劇そのものと距離が離れ過ぎてしまう。だから『こんな時代劇もありますよ』と提示することがまず優先」
単にコストを抑えただけではない。「ベタなことでマンネリと言われて時代劇は廃れた一面もある」とした上で、舞台裏を描く「メタ構造」を取り入れたのが特徴だ。
第2話では、時代劇の定番とも言える「ふすまからの登場シーン」も題材に「あのふすまを開けているのは誰?」という疑問へも切り込んだ。
「僕らが『桃太郎侍』を見てた時、ふすまが開いて高橋英樹さんが立ってる。ご丁寧に紫色のライティングまでされてるけど誰がやってんの?ってツッコミ所満載やった(笑)。今やったら気になるやろうし、自分で自分にツッコむ回でした」
「侍-」の世界観も丁寧に守った。舞台は映画から2年後の2009年。同作で助監督役だった沙倉ゆうのは、くノ一役など、ファンなら気になる仕掛けも施している。
「普通に見てたら『なんで助監督の人が役者で出てるの?』となるじゃないですか。ちゃんと説明する回も撮ってる。山口さんもなんと、斬られ役として出てきます」。
さらに映画のラストで現代へタイムスリップした侍・村田左之助(高寺裕司)にも毎話ひそかな出番が用意されている。
「僕の中では高坂に救われて斬られ役をやろうとするけど、全然筋が悪くて『とりあえずその辺歩いておけ』ってエキストラをやってる設定。6話全部どこかに出てて、たいがい団子とかおにぎり食ってます。この後はそれも辞めてお菓子屋さんになる人生が待ってるんで『そんなに芝居うまいことやったらあかんから』と言ってる。結構マニアックでしょ?(笑)」
「侍-」フィーバーからは約2年。「夢みたいな日が続いてる」と振り返る安田監督は「一番運があったのは『国宝』と同じ年に公開せんで良かったなって!」と笑いつつ「山口さんに光が当たったように、この作品で田村さんに光が当たってほしい」と願っている。
目指すのはシリーズ化と「侍-」の世界の拡大。「映画でやりたいことは全部やらせてもらったしいつ辞めてもいいんで。誰もやってへんこととか、今やる意味があることをやりたい」。唯一無二の面白さだけを追い求め、挑戦を続けていく。
◆安田淳一(やすだ・じゅんいち)1967年2月16日生まれ。京都府出身。大学生時からビデオ屋として結婚式などの映像制作を手がける。その後も企業ビデオやイベント撮影のみならず、演出やプロデューサーなど制作業務を経験。2014年、初長編自主映画「拳銃と目玉焼」を公開。24年、単館で公開した「侍タイムスリッパー」が300館強まで拡大される爆発的ヒットを起こし、日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ、数々の映画賞を受賞。監督業は米農家と両立中。
◆「侍タイムスリッパー」 幕末から現代にタイムスリップした会津藩の侍・高坂新左衛門(山口馬木也)が時代劇の斬られ役となるコメディー。長州藩士との決闘中に突如、雷に打たれて目を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ、少しずつ元気を取り戻していく中で、やがて磨き上げた剣の腕だけを頼りに「斬られ役」として生きていくことを決意する。
◆「心配無用ノ介天下御免」 「侍-」の高坂新左衛門がタイムスリップした現代で行われていた劇中劇の主人公である剣客・心配無用ノ介(田村ツトム)を主人公とした勧善懲悪の物語。王道の時代劇を軸にしながら、ドラマ制作の舞台裏を描くなど、斬新な仕掛けを盛り込んでいる。
