【「国宝」の挑戦・前編】アカデミー賞「可能性はある」「ノミネート入り自体が快挙」 近年は傾向変化→多様化、国際化で字幕映画もチャンスあり

 映画界最大の祭典「第98回アカデミー賞」の授賞式が15日(日本時間16日)に開催される。今年は、邦画実写の国内興収記録を更新した李相日監督の「国宝」が、メイクアップ&ヘアスタイリング賞にノミネート。日本作品として初の快挙で、受賞への期待が高まっている。デイリースポーツでは短期集中連載「世界を歌舞(かぶ)け!~『国宝』の挑戦~」をスタート。前編では、映画評論家の松崎健夫氏に近年のアカデミー賞の傾向や「国宝」のすごさ、受賞可能性などを聞いた。

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 アカデミー賞は約1万人いる「映画芸術科学アカデミー」会員の投票で決まる。現場で働いている人たちが本職の目で選ぶのが特徴で、中でも技術部門は当該部門の専門家たちのみがノミネート投票できる仕組みだ。

 新書「アカデミー賞入門」(KADOKAWA)を上梓した松崎氏は「評論家やファンが選ぶのではなく、実際に働いている人たちが自分の専門分野の視点で選ぶ。もともとはハリウッドで働いている人向けに始まったものなので、外国映画に技術賞をあげる必要はないとも言えます。ノミネート入りしたこと自体が快挙です」と説明する。

 近年は受賞傾向に変化がみられる。15年と16年の俳優部門の候補者が全員白人だったことから「白すぎるオスカー」と社会問題になり、アカデミー側は改革に着手。女性や有色人種、アメリカ国外出身者の会員比率を増やしており、多様化と国際化を進めている。

 19年には「外国語映画賞」が「国際長編映画賞」に名称変更され、同年の作品賞を韓国の「パラサイト 半地下の家族」がアジア作品で初めて受賞。変化の先鞭(せんべん)となった。

 「かつては『アメリカの観客は字幕の映画を見ない』と言われていました。昨年、アニメ『鬼滅の刃』『チェンソーマン』がアメリカでもヒットしましたが、ほとんどの観客が字幕版で鑑賞していたのが象徴的。くしくもコロナ禍で外に出られなくなって作品を探す中で、字幕に慣れて『SHOGUN 将軍』のような作品も生まれた。『国宝』が急にアカデミー賞に評価されたというよりは、そういう流れの中で今年は『国宝』だったと、礎の上にいるように感じます」

 メイクアップ&ヘアスタイリング賞は1981年の第54回に創設された。第1回受賞は「狼男アメリカン」。狼男の特殊メークが評価された。今回もライバルにクリーチャー系の特殊メーク作品が並んでいる。

 「特殊メークの作品と比べると『国宝』はわかりにくいですけど、やはり本職のメークの技術者が投票しているのが大きいと思います」

 例として挙げたのが、劇中劇として見せ場となった歌舞伎演目「曽根崎心中」のシーン。

 「10分くらいのシーンだけど、本職の技術者は何日も何日もかけて撮っているのがわかる。何日も白粉の統一感を出すのは難しいのに、まるで同じ日の10分間のように見せている。歌舞伎が珍しいということもそうですが、技術屋さんが技術的な視点でアメリカにはない技術を評価している」

 ノミネート作品の中では「アグリーシスター 可愛いあの娘は醜いわたし」もノルウェーの新鋭監督によるホラー。本職の人しか投票できず、会員の多様化・国際化が増しているからこそ、ハリウッド外の作品でも正当に評価されている様子がうかがえる。

 受賞の期待値については「有力候補とは言えないが、可能性はあると思います」と表現した。

 「予算的に『罪人たち』は100億円くらいかけてると思うんです。10分の1くらいの『国宝』が同じ土俵で戦っていることがそもそもすごい。パッと見て『怪物だ』『吸血鬼だ』ってことじゃない、職人技みたいなものが関わっているので、どう投票するのかは評価軸の違い。受賞してもしなくても、快挙だということはちゃんと伝えた方がいいと思いますね」

 ◇松崎健夫(まつざき・たけお)1970年生まれ。兵庫県出身。東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻修了。テレビ、映画の現場を経て、執筆業に転向した。ゴールデン・グローブ賞国際投票者。キネマ旬報ベスト・テン選考委員。2月にアカデミー賞の歴史と現状を深掘りした新書「アカデミー賞入門」を出版した。

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