【ヤマヒロのぴかッと金曜日】唯一無二の存在、キャスター久米宏。ニュース番組を変えた変幻自在の振る舞い

 久米宏さん。保守的な日本のテレビ界に、それまで無かった全く新しい形のニュース番組を確立した人であり、唯一無二と評された。1985年10月。テレビ朝日は、平日の夜22時台という当時としてはありえない時間帯に編成したニュース番組「ニュースステーション」をスタートさせた。メインキャスターはそれまでバラエティー番組専門でニュースには全くなじみのなかったフリーアナウンサーの久米さんが起用されたのだ。

 すでにお茶の間の人気者だった久米さんが手がけるニュースはどんなものだろう。興味津々だったが、初回の放送が、石狩川の鮭(さけ)。内容は忘れたが北海道の系列局のアナウンサーの自宅から中継していたと記憶している。「久米さん、こんな番組やるために、他の大きな番組を降板したのか」と、正直がっかりした。

 その後も、しばらくは内容があまりかみ合わず低視聴率にあえいでいたのだが、スペースシャトル『チャレンジャー』の事故や、フィリピン政変のニュースをリアルタイムで伝えたあたりから高視聴率を稼ぐようになる。その5年後、関西テレビのキャスターになった私に、上司は「ええか。オマエは頑張って関西の久米になれ!」などとハッパをかけてきたものだ。

 その頃にはニュースステーションはすっかりお茶の間に定着していた。軽妙洒脱(しゃだつ)な振る舞い、長身でオシャレな久米さんのどこをどうお手本にしろと言うのか?「違う違う、そこは無理に決まってるやん!そうでなくて言葉や、言葉。毎日キャスターコメント40秒やるから自分の言葉で勝負してみろ」。

 政治とカネ、金融破綻、薬害、汚職、そして災害。その都度、関係者を取材し被害者の声に耳を傾け、その思いを凝縮してしゃべり続けた、つもりだ。40秒を目いっぱい使って、怒りや悲しみをストレートに訴える。30代の私にはそれが関の山だった。久米さんならどうコメントするのだろうか?

 夜、こっそりニュースステーションを見る。同じニュース項目のVTRを見終わった後の久米さんの表情、しぐさ、間合い…。そして、厳しいコメントを手短に添える。手短に。言葉は少なくても訴える力がみなぎっていた。実はコレが唯一無二と言われるゆえん。最高難度の表現力なのである。

 よどみなく言葉を並べ立てるだけでは視聴者に伝わらないことを何度思い知らされたことか。カメラの前で怒って見せたり、おちゃめに振る舞ったり。キャスターが自らの意見を口にすることさえタブー視された時代に、久米さんだけは自由自在にそのスタイルをすでに確立していた。

 そして、徹底して反権力の人だった。93年衆院選をめぐるテレビ朝日の当時の取締役報道局長の発言(椿発言)から、番組全体の偏向報道を疑われた問題が起きた際にキャスターコメントへの圧力も強まったが、この時、久米さんは断固として拒否したと聞いている。(「いや、拒否するしないをキャスター個人が決められるわけないだろう!」と思われる方へ。拒否するんです、それが通らなければ辞めるだけのこと。代わりはいくらでもいますから。ただ、そのキャスターが必要なら局は守ります)

 あれから30年以上がたった。権力者からの介入で消極的になったり、SNSで拡散された情報を支持する人たちから非難の対象にさらされているメディアの現状を、久米さんはどう見ていたのだろうか。(元関西テレビアナウンサー)

 ◆山本浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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