【ヤマヒロのぴかッと金曜日】規制に縛られる番組制作批判を恐れぬ“笑い”の精神

 報道、スポーツ、バラエティーとテレビは大きく3つのジャンルに分かれるが、その中で制作者が一番頭を悩ますのはバラエティー番組だと、私は思う。報道番組やスポーツ番組が、目の前にある事象を切り取って伝えるのだとすれば、バラエティーは、企画・構成から自ら作り出していかねばならないからだ。

 言うまでもなくバラエティーに“笑い”の要素は欠かせない。なので、作り手はお笑い芸人やタレントを起用して少しでも面白く笑えるものを作ろうと、しのぎを削るのだ。その中で、昔は許容されていた表現や演出方法が、今では不適切とみなされることが増えた。倫理観や価値観の変化とともに、人権問題、ハラスメント、差別表現への意識の高まりが、番組制作におけるコンプライアンス強化につながっているのは周知の事実だ。

 では、現在のテレビ制作者たちが息詰まっているのかといえば、決してそんなことはない。

 今年も、日本民間放送連盟賞近畿地区審査会のバラエティー部門の選考に加わり、各局の代表作品を審査したが、いずれも見応え十分の力作ぞろいだった。その中で、朝日放送制作の『ちょいバラ 濱田祐太郎のブラリモウドク』が、1位で中央審査に駒を進めた。

 2018年に「R-1グランプリ」で優勝した盲目のピン芸人・濱田祐太郎が街ブラをしながら、これまでマスメディアで制限されてきた彼の「モウドク」(盲毒)を連発する。白杖(はくじょう)を手に、どれだけ歩いても点字ブロックが設置されていないことに「オシャレなだけの街です、堀江は!」。梅田スカイビルの空中庭園に上ろうと言われ「1階でも35階でも一緒やからな、俺は!」。

 普通ならドキッとするような発言だが、濱田はみずから毒を吐き、それを笑いに変える。お相手を務めるのは、濱田を「お笑い座頭市」と呼ぶ仲良しの先輩芸人、藤崎マーケット・トキ。階段を上りながらつまずく濱田を見て「わざとらしいことしやがって。見えてます、彼は!」「いや、見えてへんから」。この掛け合いで、周囲は明るい笑い声に包まれる。2人の信頼関係が見る者に安心感を与えるのだろう。

 『障害者を起用してさまざまな体験をしてもらいました』ではなく、プロのお笑い芸人が少し手を借りながら街歩きをするからこそ、純粋にバラエティー番組として楽しませてもらえた。もちろん全編にわたり目が見えないハンディが付きまとうが、笑いを通じて「やさしさ」や「気づき」を感じた。これこそがお笑い番組の真骨頂ではないだろうか。

 そもそも「バラエティー」は多種多様な要素を組み合わせた番組形式のことだから、こうした番組が今までなかったのが不思議なくらいだが、必要以上に視聴者からの批判を恐れるあまり、これまで世に出なかった、あるいは放送業界が勝手にブレーキをかけてきたのかもしれない。久しぶりに、若き同業者が作った作品を見てすがすがしい気分になった。(敬称略)(元関西テレビアナウンサー)

 ◇山本 浩之(やまもと・ひろゆき)1962年3月16日生まれ。大阪府出身。龍谷大学法学部卒業後、関西テレビにアナウンサーとして入社。スポーツ、情報、報道番組など幅広く活躍するが、2013年に退社。その後はフリーとなり、24年4月からMBSラジオで「ヤマヒロのぴかッとモーニング」(月~金曜日・8~10時)などを担当する。趣味は家庭菜園、ギターなど。

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