【渡邉寧久の演芸沼へようこそ】「子育て、講談、妻としても全力」一龍齋貞鏡 父の芸継承へ

 講談師になった理由は端的で、「お父ちゃんの芸がかっこよかったから」。大学2年、二十歳のころ、父で八代目一龍齋貞山の怪談噺に一目ぼれし、一龍齋貞鏡(36)は父への弟子入りを決めたという。祖父は七代目の貞山。親子孫三代、華麗なる講談一族に身を置く。

 YouTube『神田伯山ティービー』にゲスト出演した八代目に、ホスト役の伯山は「お客さんにこびずに、正統派のやり方をやり続けるのがすごい」と羨望のまなざしを向けた。

 「(ウケたい)欲もなく、無駄な動きも無駄な言葉もなかった。一切をそぎ落とした芸でしたね」と貞鏡も振り返るが、「私が目先のことしか考えずに、師匠の教えがおろそかになったことがありました。目の前の笑いが欲しい、お客様にウケたいと、どんどんどんどん勘違いしていきました。師匠に教わっていない高座をやったときに、『ふ~ん』という目をされたことがありました。何も言いませんでしたが、『こんなこと教えてないよ』っていう目。今も忘れられません。師匠を亡くしてこの1年、あらためて教えをかみ締めています」。

 愛娘を見守り続けた師匠は昨年5月26日、73歳で旅立った。

 継承できたお家芸の「義士伝」は「10席あるかないか」と少な目。「真打になってから勉強すればいい、まだまだ早いと、勝手に思ってしまっていた。私の甘えです」と後悔しつつも手をこまねいてはいない。父の死の翌月に第3子を出産し、しばらく産休を取っていたが、今春、三種類の勉強会を立ち上げた。

 今月18日、横浜にぎわい座で第1回「八代目貞山十種に挑む」、7月1日にはお江戸日本橋亭で第2回「赤穂義士伝」、8月28日には浅草見番で第2回「修羅場勉強会」。

 「欲張りなので、3人の子育ても講談も、妻としても全力でやりたい」と意欲的で、第1回「赤穂義士伝」(今年3月)では、2席ともネタ下ろし(初演)という冒険に挑んだ。「いい意味での緊張感と疲労感、達成感があり、やっぱりこの稼業辞められないな、って」と芸人としての興奮を久方ぶりに実感できた。

 来春、真打に昇進する。「師匠の芸風、心意気を継いで、講談師としての品、矜恃を持たなきゃいけないと思います」。その先に待つ九代目に近づくために。(演芸評論家)

 ◆渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう)新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクなどを経て独立。文化庁芸術祭・芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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