日本作詩家協会名誉会長で作詞家の喜多條忠（きたじょう・まこと）さんが肺がんのため、２２日に７４歳で亡くなったことが３０日、分かった。大阪市出身。葬儀・告別式は近親者で行った。喪主は妻輝美（てるみ）さん。近年は病気療養で入退院を繰り返していたという。デビュー当時から親交があり、代表作「神田川」を歌った南こうせつ（７２）はコメントを発表し「また一人大事な戦友を失い、寂しい気持ちでいっぱいです」などと悲痛な思いを吐露した。　　　

　情緒漂う歌詞で「神田川」「妹」などの名曲を生んだ“言葉の魔術師”が静かに旅立った。

　喜多條さんは早大中退後に文化放送で構成作家として活動。南こうせつと知り合ったことで作詞家の道に進み、南こうせつとかぐや姫「マキシーのために」でデビュー。７３年発売の南こうせつとかぐや姫「神田川」は、実体験を元にした歌詞でミリオンセラーとなり、「赤ちょうちん」「妹」でもつましい若者の暮らしを描き「４畳半３部作」として親しまれた。

　５０年来の付き合いである南は「体調不良は知っていましたが、こんなに早く亡くなるとは思っていませんでした」と悲痛な思いを明かした。最後の対面は１１月５日だったといい、自宅のベッドに仰向けの喜多條さんの手を握りながら１時間ほど対話。「『二人でもう一度いい歌を作ろう、神田川の次は三途の川じゃないからね』と冗談を言ったり、昔話をしながら、喜多條さんは涙を浮かべて微笑んでいました」と様子を伝えた。

　二人は文化放送近くの喫茶店で意気投合したといい「いつかきっと青山にでっかいビルを建ててみんなで夢を語れる自由なお城を作ろうよ！と語り合ったことがつい昨日のことのよう」と喪失感をにじませ、「僕はこれからもギターを抱えて歌っていくからずっと空から見守っていてください」と天国の戦友へ誓った。

　年間１００曲を作詞するなど精力的に活動した喜多條さん。フォーク以外にもキャンディーズの「やさしい悪魔」などの大ヒットを生むなど歌謡曲、演歌でも数多く名曲を残した。

　プライベートは波乱に満ちていた。妻が家を出て２児のシングルファーザーに。再婚したが３５歳頃から家を出て、全国のボートレース場を放浪し、ボートレース評論家も務めた。作詞活動から離れていた時期もあったが０８年の五木ひろし「橋場の渡し」で復帰。今年８月に発売された石川さゆりの「獨り酒」が最期の作品となった。