世界的舞踊家・田中泯 演じるのではなく「踊る」「HOKUSAI」で映画初主演

 カメラに向かい“怒り”を表現する田中泯(撮影・園田高夫)
 田中泯の優しい笑顔も魅力的だ
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 舞踊家の田中泯(76)は、映画やドラマでも「演じる」のではなく「踊っている」のだという。俳優・柳楽優弥(31)と2人1役でダブル主演した映画「HOKUSAI」(28日公開)では、江戸後期の浮世絵師・葛飾北斎の晩年を体現。圧倒的な画力で「富嶽三十六景」を描き上げた絵師の狂気を“ダンス”した。映画初主演を果たした、世界的ダンサーのミステリアスな素顔に迫る。

 演じるのではなく、踊る-。田中を唯一無二の表現者たらしめている理由が、垣間見えた気がした。

 「お芝居を上手にやるってことは全く考えてないです。ほとんど踊っている。どこまでもダンサーなんでしょうね。(役に)体ごとなる。この仕事の一番面白いところですね」

 舞踊家ならではの感覚だった。

 「HOKUSAI」で“踊った”のは、北斎の老年期。青年期の柳楽からバトンを受け、「画狂人」を自称した絵師の、魂を削るような表現への渇望を身に宿した。

 深夜の撮影で準備に時間がかかった際には「早くしよう。俺の中の北斎が逃げていってしまう」と、声を漏らしたこともあったという。「降りてきた、というか、全身が僕の空想する北斎に入っていく。『ああ、北斎になっているな』って瞬間はありましたね」と振り返る。

 俳優デビューは2002年。山田洋次監督の映画「たそがれ清兵衛」だった。当時、既に57歳。師匠の舞踊家、土方巽さんが死去した年齢と一緒だった。

 「先生の死んだ年になって、あまりにも自分は情けない、と落ち込んでたんですね。面白くなかった。『クソ、クソ』と思っていたところに話がきて、何かのきっかけになるかな、と思ったら、その通りになりましたね」

 1回きりのお芝居…のはずだったが、魅力に取りつかれた。

 「踊りで作ってきた体が生かされるって思ったんです。『俺、映画の中でも踊れるんだな』って。踊りとお芝居は言葉っていう決定的な違いはありますけど、人間についてやっているという意味では一緒。この年になってやっているのは、もっともっと深い淵に入り込んでいきたいというのが大きいですね」

 1980年代から山梨県の山村で暮らし、鳥のさえずりで目覚める朝が日常になっている。10匹ほどの猫に囲まれ、縄文時代の方法で畑を耕す。雑音の少ない生活で感覚や身体性を研ぎ澄まし、起床時には全身のメンテナンスに1時間半をかける。今では村長の打診を受けるほどだ。

 踊り、芝居し、地を耕す異色のダンサーは、これからについて聞かれると「踊りは死ぬまでやめられない。農業も体が動かせるうちはやる。『早く使わないと動けなくなるよ!損だよ』って監督たちを脅す!」と、ニヤリと笑った。

 ◆田中泯(たなか・みん)1945年3月10日生まれ、東京都出身。74年、ダンサーとして活動を開始。78年、仏ルーブル美術館での芸術祭で世界進出。2002年、映画「たそがれ清兵衛」で俳優デビュー。日本アカデミー賞の最優秀助演男優賞と新人俳優賞を受賞。主な出演作は映画「メゾン・ド・ヒミコ」、「いのちの停車場」、ドラマ「ハゲタカ」、NHK大河ドラマ「龍馬伝」など。22年の大河「鎌倉殿の13人」に出演予定。

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