トンプソン・ルーク僕は日本人「心は日本にある…プレーはチームと国と家族のため」

 ラグビーW杯日本大会が20日に開幕する。8強入りを目標にする日本代表においてなくてはならない存在が自称「おじいちゃん」で今季限りでの現役引退を表明している、ロックのトンプソン・ルーク(近鉄)だ。前回大会出場後に一度は代表を引退したが撤回。38歳でW杯日本代表最年長出場を目指す。W杯4大会選出は元木由記雄、松田努以来、日本代表史上3人目。小野沢宏時の持つW杯出場最多記録の12試合にもあと2試合と迫る。仲間から愛情を込めて「トモさん」と呼ばれる鉄人の素顔に迫りつつ、大会展望、ジョセフJAPANの歩みなどを特集する。

 ニュージーランド出身。それなのに「生まれたところじゃないけど、心は関西人」と言い切る。04年に来日したルーク・トンプソン。三洋電機(のちのパナソニック)を経て06年から近鉄に移籍。以来、東大阪市に住む。10年に日本国籍を取得してトンプソン・ルークになった。そして周囲には親しみを込めて「トモさん」と呼ばれる。

 なんで関西人なの?と聞かれて、トモさんは少し考えて話した。

 「14年間くらい花園の近くに住んでいる。英語のことわざで言えば“Home is where the heart is.”“家とは心のある場所”という意味ね。それが大阪。外国人が日本に住むのは簡単じゃない。言葉も食事も文化も違う。近くに住んでいる人にすごく助けられた。いっぱいの友達と、日本で楽しく過ごした。今の気持ちは、東大阪、めっちゃ好き。いつもありがたい」

 15年大会を終えて、一度は代表引退を決意した。家族との時間を最優先にするという、ネリッサ夫人との約束があったからだった。

 「最も高いレベルで、もう一度プレーしたい」。抑えきれない思いがわき上がったのは、テレビで観戦した昨年6月の日本-イタリア戦だった。かつて慣れ親しんだ赤と白のジャージーが躍動するたびに、ピンチを迎えるたびに、体が揺れた。前のめりになった。

 「奥さんが隣にいて、僕は、やりたいなみたいな感じで…」。以下のやりとりは、こんな感じ。

 ネリッサ夫人「代表でやりたいの?」

 トモさん「もちろん」

 ネリッサ夫人「もしやりたいならどうぞ」

 トモさん「引退、引退、引退。引退したから、それ、大丈夫」

 ネリッサ夫人「本当にやりたいなら、いつも応援している」

 妻の言葉が、決断させた。「もし奥さんが『応援している』って言わなかったら、絶対に(代表復帰は)なかった」と振り返る。

 動いた。今年1月に日本代表コーチで、日本代表とリンクするスーパーラグビー(SR)の日本チーム・サンウルブズ(SW)のヘッドコーチ(HC)も兼務するトニー・ブラウンに電話した。

 「『おじいちゃんのロックは(日本代表に)要る?』ってね。『SWにけが人が多いから、テストしよう』と言われた。最初は3試合の契約。そこでよくなければジャパンは無理だった」

 当初はジェイミー・ジョセフHCの構想外だった。2月には「トンプソン?SWにけが人が出たから入っただけ」という、つれない言葉を報道陣に残している。だが、“おじいちゃん”の存在感は異彩を放った。「3試合契約」はあっさりクリア。6月の日本代表宮崎合宿で復帰した。

 「僕はおじいちゃんだけど、この代表ではニューフェース。毎日がアピールの場」。合宿での姿に、ジョセフHCの評価も180度変わった。8月末のW杯代表発表会見でこう話した。「経験と不屈の精神を評価している。W杯で成功しているチームに一貫しているのは、ベテランが入っていること」。今、必要不可欠な存在だ。

 その高い鼻は、右に左に曲がっている。試合で何度も骨折した痕だ。「(6日の)南アフリカ戦でシェイプ(形状)が変わりました。奥さんからはいつも試合前に『今回は左側からお願いします』とリクエストされるけど…」。曲がった方からぶつかれば、元に戻る。そんな愛妻の願いに「難しいね」と苦笑い。自ら「ブサイク」という鼻は、果敢なプレーが生み出す勲章だ。

 「僕は日本人。違う顔だけど、日本語あまりうまくないけど、僕の心は日本にある。プレーはチームと国と家族のため」。愛する家族、愛する大阪、愛する日本のために戦う、4回目のW杯-。4年前の南アフリカ戦終盤、「歴史変えるのは誰」と鼓舞した男は「新しい歴史を作りたい。ベスト8。ベストなプレーができればチャンスはある」。38歳のトモさん。最後のひと鼻、いや、ひと花を咲かせる。

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