【記者コラム】完全アウェー、受難の日々 「加油 日本!」「加油 俺!」

 【杭州】心を折られた。杭州アジア大会の競泳会場の取材エリアで日本選手を取材していると、外国の女性記者に思い切り突き飛ばされた。お目当ての選手が到着したのに気付き、われ先にとスタートダッシュをかましたようだ。私のことは完全に「アウト・オブ・眼中」。普段、整然とした環境で仕事するのに慣れているせいか、地元の中国メディアをはじめとする報道陣の膨大な数、そして熱量に、すっかりおじ気づいた。記者にとっても「完全アウェー」の地。もまれながら日々を過ごすのだが…。(共同通信・辻圭太郎)

 受難は続いた。スケートボード女子パークのメダリストによる記者会見に出席した時のこと。「銀」「銅」の中国選手に質問が集中するのに対抗し、金メダルに輝いた15歳の草木ひなのに質問しようと躍起になった。

 手をできるだけ高く上げることはもちろん、目や口も全開に。司会者に向け全身で「当ててくれ!」のオーラを発した。草木からは後で「1番に手を挙げてくれましたね」と言われたから、結構目立っていたはずだ。

 しかし、私を含む日本メディアは誰ひとり質問者として指名されなかった。会見後に雑談をかわした異国の記者からは「おまえ達は(会見場の)前の方に座っていないから指名されないんだ」と一蹴されるおまけまでついた。

 

 もんもんとして宿に戻り、今大会でルームメートとなった同僚を待った。彼は私より10歳ほど年下だが、いつも的確な意見をくれる頼もしい男だ。事の次第を話すと、やはり冷静に彼は言った。

 

 「よほど、変な顔をしていたんでしょうね」。

 

 ほっといてくれ。

 日本に早く帰りたい。後ろ向きな気持ちで大会の前半を過ごした。

 目を覚まさせてくれたのはアスリートの活躍だった。陸上男子の主将、佐藤拳太郎(富士通)が400メートルで銀メダル。他選手に途中まで先行されながら、冷静に巻き返した姿が印象的だった。

 パリ五輪に向けて、今季は「強さ」をテーマに戦っているという。海外での連戦が続いても、疲労があっても、どんな条件でも高いアベレージでのパフォーマンスを続けることを目指している。

 今大会を取材し、あらためて国際大会の厳しさを痛感している。地元の中国ばかりが応援されるアウェーの環境はもとより、競技によっては練習時間の急な変更もある。

 観衆のざわめきがやまないので、号砲やスタートまでの時間がいつも以上に長くなるなど、イレギュラーな事態への対応を強いられる場面を何度も垣間見た。

 予期せぬ状況に対しても、ぶれることのない「強さ」を得ること。それこそがパリ五輪出場、そして本番での活躍にもつながるのだろう。

 パリに向けて戦うのは記者だって同じだ。競技会場で何度か顔を合わせて会話を交わすようになった外国メディアの記者に尋ねられたことがある。

 

 「おまえは、パリに行くのか」

 よく話を聞くと、彼の会社がパリ五輪の取材班を編成するにあたり、杭州アジア大会での各記者の仕事ぶりが重要な判断材料になるのだという。彼は、来夏の大舞台に立つため、今どんな記事を書くべきか、苦心しているようでもあった。

 私は、彼に心を込めて言う。

 

 「加油(頑張れ)!」

 そして私だって、パリを目指す一人だ。

 「加油 俺!」

 彼は次の競技会場に向かうため、私にさよならを言うと、引き締まった表情でこう続けた。

 

 「おまえ、昨日よりさらに黒くなったんじゃないか?」

 ほっといてくれって。俺の顔のことは。

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