羽生結弦 『報われなかった 今は今で幸せ』 4回転半ジャンプで初めて見せた「失敗」

 2018年平昌五輪で、66年ぶりとなる五輪連覇の偉業を成し遂げてから4年。北京五輪での3連覇はならなかった。それでも、クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)は世界初認定。王者が果敢に夢へと挑む姿は世界をふるわせた。どんな時も完璧な姿を見せてきた羽生が、初めて見せた「失敗」。その失敗をも昇華させ「報われなかった今は今で幸せ」との言葉とともに3度目の五輪は幕を閉じた。あれから5カ月、羽生はさらなる「幸せ」を追い求めるため「プロ」のステージへと進む決断を下した。

 「挑戦しきった、自分のプライドを詰め込んだ五輪だった」。3度目となった北京五輪は4位で幕を閉じた。3連覇は夢と消えた。4回転半ジャンプは世界初認定こそされたが、転倒に終わった。努力は報われない。夢が全てかなうわけではない。そんなことは知っていた。それでも演技直後、羽生は「報われない努力だったかもしれない」と声を震わせた。胸の内にとどめておくことができるほど、たやすい努力ではなかった。

 ソチ五輪、平昌五輪と有言実行を重ねた競技生活。常に「完璧」な羽生結弦を見せ続けてきた。挑戦ははかなく散った。それでも世界は、果敢に挑んた羽生へあふれんばかりの拍手を送った。

 小さい頃から「夢」に描いてきた憧れのジャンプ。実現を信じたからこそ、平昌五輪後も現役を続けた。前例のない挑戦は「ひたすら暗闇を歩いているだけ」と感じた。平昌五輪翌年には完成できると考えていたが、思い通りに練習は進まない。強い恐怖心から「死ににいくようなジャンプ」とこぼしたこともある。何度も諦めかけたが、気付けば「夢」に世界中からの期待が重なった。

 「自分のために滑る。今まで大変な道のりを歩んできた自分に対して、報われるようなことをしてあげたい」と挑戦を始めた羽生が、いつしか「みんなの夢。自分のためではあるけれど、みなさんのためにもかなえてあげたい」と言うようになった。真っ暗なトンネルをたった一人で歩むような、果てしない道のり。その背中を世界中のファンが支えていた。その声援の偉大さを感じていたから、羽生の夢はみんなの夢へと進化を遂げた。

 フリーの演技から10日後、北京五輪閉会式の日、羽生は「報われなかった今は、報われなかった今で幸せ」と柔らかく、穏やかな笑みを浮かべた。

 「北京五輪で挑戦が成功したわけではないけど、夢を追い続け、頑張り続けた。ある意味、それを証明できた場所でもあった」。決意表明の会見で、羽生はこうも言った。「僕がこれまで努力してきたことを、応援してくださる方々に評価していただいたり、見てもらえたり、何かを感じていただけたり。そんなことが僕は本当に幸せ。その幸せも大切にしていきたいと今思う」と。

 勝ちたい、楽しみたい、夢をかなえたい。さまざまな挑戦を続けてきた羽生だからこそ、これから進むべき道もハッキリと見えている。「これからも羽生結弦らしく全力でスケートをやっていきます」。夢に終わりはない。4回転半への挑戦はこれからも続けると決めた。わき上がる「幸せ」をかみしめて。さらなる「幸せ」を追い求めて。羽生は「新たなスタート」の時を迎えた。(デイリースポーツ・國島紗希)

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