羽生結弦 『負けは死も同然』「勝利」と「夢や理想」の両立にもがいた4年間
五輪2連覇という偉業を成し遂げた羽生結弦は「自分のために滑る」と決意し、心からスケートを楽しむための新たな挑戦を始めた。目標はクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)の成功。ただ、その過程で羽生は何度も勝負の厳しさと直面する。2019年3月の世界選手権(さいたま)では、チェンに敗れ2位。「負けは死も同然」と厳しい言葉で悔しさを表し、闘志を燃やした。
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夢の五輪2連覇を成し遂げた羽生。「もう勝ち負けに固執する必要はない」。少年時代に憧れた2つのプログラムを携え、平昌五輪翌シーズンが幕を開けた。競技者としての“終わり”も心の片隅に置きながら、前人未到の4回転半成功を目指す道のり。五輪後初戦となった9月のオータムクラシック(カナダ)を優勝で終えた羽生は、しかし、不完全燃焼な演技内容に「勝たないと意味がない。最短で強くなりたい」と言った。
シーズン最大の舞台である3月の世界選手権は、SP「秋によせて」で3位と出遅れ。フリーでは「原点」をテーマにした雄大なプログラム「Origin」を表現した。全てを出し切る演技でフリーの世界最高得点をマーク。しかし、直後にチェン(米国)が世界最高得点を上書きする演技を見せ、2位に終わった。
「負けには負けっていう意味しかないので。負けは死も同然と思っている」
思えばこの4年間、常に羽生は「勝利」と「夢や理想」のはざまで戦ってきたのだろう。得点だけに固執せず、羽生結弦が見せられる最大限をプログラムに込めたい。息継ぐ間もない、流れるような美しい作品を完成させたい。世界で誰も決めたことがない4回転半ジャンプを成功したい。ただ試合に出れば、勝利を求められるのは必然。理想の演技が必ずしも得点に結びつくわけではない中で、両者をどう両立させるか。「フィギュアスケート」という枠やルールの中で、どう折り合いをつけるか。心の炎はどうすれば燃え上がるのか。もがいた。
それでも、18年にはGPシリーズ初戦の初勝利を達成。19年にはGPスケートカナダ4度目の出場にして、世界最高得点(当時)に肉薄する高得点での初優勝を飾った。
20年2月には、四大陸選手権(ソウル)に出場。忘れ物を取りに行くように、ただ1つ取れていなかったタイトルをかっさらい、男子では初めてジュニア・シニアの主要国際大会6冠「スーパースラム」を成し遂げた。
勝負にはこだわらないと歩み始めた“夢の続き”のはずだった。もがくようにも見えたその姿は、しかし、着実に「勝利」を重ねた。「負けるくらいだったら辞めろって思っている」と引き際について言及したこともある。ただその中で「4回転半ジャンプを跳ぶためにスケートをしている。そのために生きている」との信念は、一度たりとも曲げなかった。(フィギュアスケート担当・國島紗希)





