「個」を重んじた大谷がWBCで証明した「全」の強さ 場所問わず見せた喜怒“愛”楽

 侍ジャパンが世界一を奪還した第5回WBC。2月の宮崎合宿からチームを追い続けた侍取材班が、5回の連載で大会を振り返る。第5回は松井美里記者。初対面となった世界のスター・大谷翔平投手(28)との2週間を、これまでの取材内容から振り返る。

  ◇  ◇

 それぞれ歩んできた野球人生があるように、勝利への貢献の仕方はさまざまだ。目指すゴールが同じなだけで、そこにたどり着くまでの過程には個性がある。大谷の言葉に触れた2週間。一言、一言に隠された意味を知ったのは帰国後だった。毎日が走馬灯のように過ぎ去る中、一丸でつかみ取った世界一。大谷はこう、話した。

 「正直、終わってしまうのがちょっと寂しいような気持ちもあります。それはみんな同じじゃないかな」

 色濃い時間だった。仲間の一打に喜び、凡打には誰よりも悔しがる。グラウンド、ベンチ…。場所を問わず、喜怒“愛”楽の表情を見せ、チームをけん引。開幕から不振で苦しむ村上を誰よりも励ます姿は、作り上げた最強ジャパンの象徴だったように思う。

 序盤から劣勢だった準決勝・メキシコ戦では、九回に鋭い打球を放つと「打球的に三塁が狙える」とヘルメットを放り投げて加速。結果は二塁打だったが、「つなぎさえすれば、1点くらい簡単にひっくり返せる。そういう打線なので」と仲間を信じた。すると苦しむ主砲にサヨナラ打が飛び出し、人々は感動のシーンを目にした。

 思い返せば合流初日。宮崎合宿から結束を高めてきたチームのことを問われた大谷が、迷わず言い切った。「チームワークも、もちろん大事ではありますけど、個の集結がまずは一番いい形になる。個人、個人が100%グラウンドの中で持てるものを出せるかどうかが一番のチームワークだと思うので」。まずは状態を上げること。自らに課した責務だ。「個」を重んじた。

 少年時代から憧れたダルビッシュに直接LINEを送るなど、一緒に立つことを熱望したWBC舞台でもある。それでも大谷は「勉強したいなという気持ちは二の次。本当に勝つことだけを考えてやっていきたい」と表情を引き締めた。国内選手が次々に弟子入りを志願していた空気もあり、ストイックな印象さえ抱かせたが、目指した世界一奪還へ。険しい道を理解していたからこその、偽らざる言葉だった。

 準決勝前に米国で開かれた決起集会。ダルビッシュが幹事を務めたが、大谷は欠席したという。異例とも思われる決断だったが、仲間とたどり着きたい目標があったからこそではないか。「間違いなく今までの野球人生でベストな瞬間じゃないかなと思います。短い期間でしたけど、みんなで一つになって本当に楽しい期間でした」。個がつなげた全の強さ。最強を証明した大谷は、仲間を指針にまた走り始めるのだろう。

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