イチロー氏「日本野球の力になりたい」阪神・淡路大震災から30年 殿堂入りに未来へ決意

 オリックスや米大リーグで通算4367安打を放ったイチロー氏(51)=本名鈴木一朗=の野球殿堂入りが16日、都内の野球殿堂博物館で発表された。2019年の引退以降、未来を担う子供たちへの野球指導をライフワークとしているイチロー氏は自ら、17日に迎える阪神・淡路大震災から30年の節目に触れ、子供たちに自身の経験を伝えていくこと、さらに「日本の野球の力になれるよう」進んでいくことを誓った。

 厳かな雰囲気に包まれた野球殿堂博物館のホールで、イチロー氏は自らあの日を語り始めた。

 「明日で阪神・淡路大震災から30年がたちます。初めて命の危機というか、自分はこれで死んじゃうのかもしれないと思った。初めて命について考えさせられた時間でした」

 震災から30年の節目を前にしての殿堂入りの栄誉。自身のプロ野球人生の原点となった神戸。その街ががれきと化したあの日を率直な言葉で表現した。未曽有の震災を経験したものとして、語ることは不可欠だった。

 「伝えていくのは大変難しいんですけど、当時被災者として経験した思いを、経験しなかった子供たちにも伝えていけたらと思っています」

 幼少期からプロ野球選手になることを夢見て、練習に明け暮れた少年は、ドラフト4位でオリックスから指名され、神戸でプロ野球人生をスタートさせた。転機となったのは「唯一の師と呼べる存在。監督なしでは今の僕はない」と表現する仰木彬監督との出会いだった。個を重んじる指揮官は、イチロー氏をプロ3年目の94年からレギュラーに抜てき。期待に応えるようにイチロー氏は「振り子打法」と呼ばれる独特の打撃フォームで安打を量産し、才能を開花させていった。

 指揮官の後押しを受けて2001年からは大リーグを舞台に活躍。日本人初の野手としてデビュー元年から242安打を放ち、史上2人目のMVPと新人王をダブル受賞するなど、唯一無二の存在として記録を打ち立てていった。

 2019年3月。超満員のファンにスタンディングオベーションで送られた東京ドームでの引退試合を「人生の大きな支えになると思います」と感謝し、28年に及んだ野球人生を「未練があったり、後ろ向きな気持ちは全くない」。胸を張って言い切った。

 野球一筋に生きてきたイチロー氏は、新たな生きがいも見つけている。それは高校球児への指導だ。「彼らとの出会いが僕の大いなる目標であり、モチベーションになっている。子供たちが向き合う野球は純粋なものであってほしい。時代で変わっていくものはあっても、変えてはいけないものもある。そこを僕は強く意識して、子供たちと接していきたい」と高い理想を掲げた。

 「安打製造機」「孤高の天才打者」。イチロー氏はクールなイメージで語られてきた。だが、日本球界の未来を担っていく子供たちに向けるまなざしは厳しくも温かい。「自分が動けなくなるまで野球に携わって、日本野球の力になりたいと思います」。未来に向けて決意を述べた。

 ◇イチロー(本名鈴木一朗=すずき・いちろう)1973年10月22日生まれ、51歳。愛知県出身。現役時代は右投げ左打ちの外野手。愛工大名電から91年度ドラフト4位でオリックス入団。94年から7年連続首位打者。00年オフにポスティングシステムでマリナーズ移籍。メジャー1年目の01年に首位打者となりア・リーグの最優秀選手と新人王。2度目の首位打者となった04年は262安打でシーズン最多安打。12年7月にヤンキースへ移り15年からマーリンズ。18年マリナーズ復帰。19年現役引退後はマリナーズの会長付特別補佐兼インストラクター就任。06・09年WBC日本代表。

 ◆候補入り1年目での選出 競技者表彰が始まった1960年以降、候補入り1年目での選出はビクトル・スタルヒンさん(1960年)、王貞治さん(94年)、野茂英雄さん(14年)、工藤公康さん(16年)、松井秀喜さん、金本知憲さん(ともに18年)に次いで史上7人目の快挙となる。

 ◆野球殿堂入りの対象者と選出方法は次の通り。

 【競技者表彰】    

 ▽プレーヤー表彰

 対象は引退から5年以上の元プロ選手で今回は28人。候補者でいられるのは15年間。選考は野球報道に関して15年以上の経験を持つ委員が務め、7人以内の連記で投票する。

 ▽エキスパート表彰

 プロのコーチ、監督でユニホームを脱いで6カ月以上が経過しているか、引退から21年以上の元プロ選手が対象。今回は20人。選考は既に殿堂入りした人、競技者表彰委員会幹事と野球報道30年以上の経験を持つ委員が6人以内の連記で投票する。

 【特別表彰】     

 対象は①アマの競技者で選手は引退から5年以上、コーチと監督は引退後6カ月以上②プロ、アマの審判員で引退後6カ月以上③プロ、アマの組織などの発展に貢献④野球に関する文芸、音楽などの著作物や報道関係者としての実績がある-の項目に該当する人。選考はプロ、アマの役員や野球関係の学識経験者が投票する。

 ◆野球殿堂 日本野球の発展に大きく貢献した人たちの功績をたたえ、顕彰することを目的に1959年に創設された。プロ球界で功績のあった競技者表彰(プレーヤー表彰と指導者も対象となるエキスパート表彰)と、審判員やアマを含め球界に貢献のあった人が対象となる特別表彰がある。選出にはいずれも投票で75%以上の得票が必要。今回の選考で競技者表彰は107人、特別表彰は115人となった。殿堂入りすると東京ドームにある野球殿堂博物館にレリーフが飾られる。

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