阪急と訣別後、指導者として成功した男を支えたものは「見返してやる」の反骨心~長池徳士氏が語る

 元阪急ブレーブス(現オリックス)の4番で、本塁打王と打点王を各3度獲得するなど、長距離ヒッターとして活躍した長池徳士氏(80)は指導者としての手腕も確かだった。阪急のコーチを退任したあとは西武、南海、横浜、ロッテで打撃部門を預かり、多くの一流選手を輩出。その指導現場では「見返したい」という強い反骨心がバネになったという。

 見返したかった相手-それはかつてのリーダー上田利治氏だった。

 長池氏は現役最終年の兼任コーチ時代を含めると、阪急での指導歴は4年に及んだ。その間にリーグ制覇はなく、結果責任を打撃コーチが取ることで落ち着いた。

 「解任の理由が“長池は何もしない”ということでした。だから西武のコーチになったとき“見返してやろう”という気持ちになったんです。エネルギーになりました」

 広岡達朗監督から声がかかり、西武の打撃コーチに就任したのは1985年。ここで秋山幸二の才能にホレた。走っても泳いでも速かった。器械体操はピカいち。体が強く、腕力もあった。

 「ただバットを持ったら当たらんだけ。当たったら飛ぶ」

 その大砲候補をたった1年でレギュラーに育て上げ、40発を打たせてみせた。前年の4本から一気に10倍。そこで取り組んだのが「インコースしか打たさなかった」という内角打ちだ。

 「内角球が打てれば、どのコースもさばけるようになる」という自身の経験則に基づく持論に従い徹底的に教え込んだ。

 また選手を指導する過程で、監督とコーチの「あるべき姿」を知ることもできたという。

 「広岡さんは“長池、頼むで。こいつを4番にしてくれ”と言ってコーチに任せる人でした。僕が迷い出すと、アドバイスをくれる。例えば日本刀でワラを切ってみるとかね。日本刀は手でコネると切れない。バッティングも同じだと」

 コーチの立場は尊重するが、結果が出なければクビ。チームが負ければ監督がクビになる。単純明快。責任の所在はハッキリしていた。

 長池氏は南海でも打撃コーチとして佐々木誠らを一人前に育てた。横浜では近藤昭仁監督のもとヘッド兼打撃コーチで、鈴木尚典や佐伯貴弘、谷繁元信らを指導。

 西武コーチ時代に“同僚”だった近藤氏からはロッテの監督に就任した際もコーチ要請を受け、引き受けている。

 多くの球団でコーチ経験のある長池氏だが、一方で入閣要請を断ったケースも少なくない。

 高田繁氏が日本ハムの監督に就任したときは青田昇氏から連絡があり、「おー池よ。高田を助けてやってくれ」と言われたが、迷った末に受けなかったという。

 広岡達朗氏がゼネラルマネジャー時代のロッテでは、監督がバレンタインから江尻亮氏へ交代するタイミングで話があっただが、これも断った。

 ヤクルトでもあった。1990年秋と翌年春のキャンプで野村克也監督の要請に応えて臨時コーチに。その後、「うちのユニホーム着んか」と言われたが、丁重に辞退したという。

 育ち盛りで楽しみな選手が多く、特に古田については「理解力があり器用で教えやすいタイプ。機転が利いて何でも自分流にアレンジするのがうまかった」と絶賛。

 野村監督から「カーブを打てるようにしてやってくれ」と頼まれたが、「カーブを打てないのは速い球が打てないから」と言い切り、内角の速球を打ち返す打撃をマスターさせたという。

 そんな魅力あるチームなのになぜ?

 「野村さんに“オレのグチを聞いてくれるだけでいいから”と言われてね。僕は聞き上手じゃないから“オレの働く場所じゃないな”と思ったんですよ」

 サッチーの影がチラついたのもある。ロッテでは伊良部問題がちょっとした弊害になった。

 だが、そんなこんなも今から思うと、「やっぱり断るもんじゃないですねえ」と少なからず後悔しているという。

 「阪急のコーチを解任されたあと、僕はコーチとして自分の教え方が正しいのかどうかを見極めたかった。それで“そこそこやれたかな”という気持ちにはなったけど、野球はどんどん進歩していましたから」

 長池氏は現役時代から変わらず宝塚に住み、野球の情報に囲まれて暮らしている。「ここ関西では一年中阪神、佐藤輝ですよ」と言って笑う。

 今、教えてみたい選手は、その潜在能力を秘めた佐藤輝とソフトバンクのリチャードだという。

 「リチャードのパワーなんかハンパじゃないですよ。欠点は肘と肘が開いているところ。両脇を締めるにはチューブを使うことやけどなあ」

 進化する野球と自身の打撃理論。試合中継を見ながら、その答え合わせをするのが何より楽しいと長池氏はいう。

(デイリースポーツ/宮田匡二)

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