「最大差逆転」の日本記録 15本差を引っくり返すホームランキング~元阪急の長池徳士氏が語る

 長池徳士氏
現役時代の長池さん
2枚

 元阪急ブレーブス(現オリックス)の4番で、本塁打王と打点王を各3度獲得した長池徳士氏(80)は現役時代、数々のドラマを残している。最終戦で逆転、獲得した本塁打王もそのひとつ。32試合連続安打の記録に3連発で自ら花を添えた“勲章”と並ぶ「印象深い」試合だという。

 その劇的であり、悲劇的なドラマは1972年10月15日の阪急-ロッテ戦、西宮球場を舞台とするペナントレース最後の130試合目で生まれた。

 本塁打争いでトップを走る40本の東映・大杉勝男は、すでに全試合を終えていた。

 1本差の39本で追いかける長池は4番・右翼で出場し、先発・八木沢荘六との対決に望みを託した。

 大杉を好敵手と認める長池には毎年、「40本は打たないとタイトルは取れない」という覚悟があった。タイトルとはもちろん、他の何よりもこだわるホームランキングだ。

 前年の“悔い”も忘れてはいなかった。同じ失敗だけは繰り返したくない。リキむな。焦るな。本塁打できる球だけを打つのだ。とにかく八木沢の投球に集中した。

 「1本打ったことで肩の力が抜けて、次の打席でもポーンと打てたんやろうね」

 過去の記憶が蘇ったのか。2発の感触が手のひらに残っているかのように長池氏は語る。

 二回に放った1本目は内角へのスライダーだった。四回にも同じ八木沢からチェンジアップをたたき、再び左翼席へ運んだ。この神懸かり的な2打席連発で大杉を一気に抜き去った。

 「大杉にしたら“今年も、もらった”と思っていたはずだから、ガッカリだったと思いますよ。一時は15本差だったのに彼は大スランプに陥りましたからね」

 この年、7月17日時点で大杉は27本。長池は12本。確かに絶望的ともいえる15本の大差がついていた。

 前半は大杉が走った。5月に王貞治に並ぶ月間最多の15本塁打を記録し、独走態勢を築く。

 ところが、夏場に入って失速。今度は長池が盛り返し、9月に同じく月間最多タイの15本塁打で猛ラッシュをかけた。「さすがに引っくり返す気持ちなどなかった」というが、長いペナントレース。何が起こるか分からない。

 長池氏がしみじみと語る。

 「ホームランは(そう簡単には)打てないもんやねえ」

 振り返ってみれば、前年の1971年は41本の大杉に対し、40本の長池が僅か1本差で本塁打のタイトルを逃している。

 同じように1本差を追う状況で長池は最終戦、1番打者として試合に出ていた。平和台球場での西鉄戦。自身、公式戦初のトップバッターとして起用された。

 西本幸雄監督の「1打席でも多く立たせたい」という計らいだったが、この“親心”に応えられず、6度の打席で内野安打1本。本塁打どころか外野フライすら打つことができなかった。

 ホームラン風が吹き、甘い球もあった。だが、力が入り過ぎていた。悔しさの詰まったラストゲームは、技術だけでは語れない「打撃の難しさ」を痛感した試合でもあった。

 1本差に笑い、1本差に泣いたライバル2人。「打撃の難しさ」を知るからこそ、長池は底なし沼に足を取られた大杉の気持ちが理解できたのだろう。

 69年=長池、70年=大杉、71年=大杉、72年=長池、73年=長池。これは年度別の本塁打王だ。

 この熾烈なタイトル争いの中で生まれた15本差の逆転ホームランキングは「最大差逆転」の日本記録としていまだに破られていない。

(デイリースポーツ/宮田匡二)

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