“イチロー禁止令”から約30年 同氏の高校野球指導がもたらした意味
少年野球をやっていたころ、オリックス・イチローの振り子打法が一世を風靡(ふうび)した。記者も、右打ちながら左足を大きく引くようにして真似していた記憶がある。
と同時に所属していたチームの監督やコーチなど指導者から出されたのは「それでは絶対に打てない」という“禁止令”。「あれはイチローだから打てる」「子供が真似したらダメ」-。どれも明確な理由はなかったような気がする。よく練習試合をやっていた相手チームにも振り子打法を取り入れていたバッターが、1カ月後には普通の打ち方に戻っていた。子供心に「なぜダメなんだろう」とも思ったし、「やっぱり無理なんだ」とも考えた。
あれから約30年、22日のセンバツ1回戦で現役時代のイチロー氏のように前にバットを掲げ、左手でユニホームの袖に触れるルーティンを実践している選手がいたのが目に止まった。国学院久我山の斎藤誠賢外野手(3年)。独特の動作を経て左打席に立ち、1点リードの六回に貴重な追加点となる左前適時打を放った。
取材メモをひもとくと、昨年11月にイチロー氏が同校を訪れた際、斎藤はルーティンについて聞いたという。「教えてもらいました。ルーティンはどうしているんですかと聞いた時に、左中間の世界を。左中間側の世界を見て、ライト側の世界は見ないようにしているとおっしゃっていたので、あのポーズをしたら外(を逆方向)に打つという意識を強く持てるので、そういう意識で打ちました」。バットを前に掲げることで、センターから左側に視界を置く。そうすることで外角の球に対してスムーズにバットを出すことができ、右肩の開きも抑えられるなどの効果が考えられる。
「今日のピッチャーが外攻めと言うことで、あのポーズをすると左中間に打つ、左中間側の世界を見ると言うことでああいうポーズをして、左中間を意識しようって打っていきました」と振り返った斎藤。“イチ流”の動作を取り入れ、真似することで「イチローさんの教えがあって取れたタイムリーだと思っているので、とても今イチローさんに感謝しています」と明かした。
記者の高校時代、1990年代後半はプロ&アマが雪解けを果たす前で、直接教えを請うことはできなかった。接触すら禁止されていた時代だった。もしこんな明確な理由で、あのルーティンを行っているとイチロー氏から直接教えてもらっていたら…誰しもが一度は取り入れていたのではないだろうか。
イチロー氏がこれまでの経験&技術を高校生に伝授し、その生徒たちが甲子園という大舞台で実践する。その理由がこうして明らかになることで、他の高校球児にとっても“技術の引き出し”になっていく。
イチロー氏が高校生を指導することで、その言葉がヒントとなり、飛躍的に技術が向上する選手がいるかもしれない。最高の結果を出せる選手がいるかもしれない。今までダメと言われてきたことが、逆に主流となるかもしれない。次代の高校野球へ-。イチロー氏が指導する意味を肌で感じさせてくれた国学院久我山・斎藤のバッティングだったように思う。(デイリースポーツ・重松健三)



