戻った“兄弟”の心の距離 金本と新井が再び同じベンチに

 「オールスター・第1戦、全パ4-5全セ」(15日、ヤフオクドーム)

 お祭りとはいえ、阪神・金本知憲と広島・新井貴浩が再び同じベンチに入った。12年10月19日のDeNA戦以来だから、1375日ぶり。言うまでもなく、金本の引退試合がそのときだが、実はあの夜、僕は両者の心の距離が気になっていた。2人が当欄を読めば「は?」と否定するかもしれない。でも正直、「互いの心が離れてしまっている」と感じていた。

 さかのぼれば02年の秋。金本が広島を離れる決断をしたことで“兄弟”の野球人生が激動する。当時の広島はFA残留を認めておらず、兄貴分の権利行使をキャンプ地・日南で聞いた弟分は涙して荒れた。実兄のように慕う金本が出ていく…。深酒で悲しみを紛らわし、翌日は練習にならなかった。後日、新井本人からそう聞いた。

 07年オフ、新井が後を追うように阪神に移籍した。「もう一度、金本さんと野球をやりたい」。今聞いても新井は当時の気持ちを否定しない。この絆は半端ない。周囲は誰だってそう感じたが、皮肉なことに阪神で師弟関係は崩れた。なぜか。ここからは僕なりの推察でしかないが、突き詰めれば、金本は新井のことがうらやましかったのだと思う。

 金本はこんなふうに漏らしたことがある。「俺にあいつの上背があれば…」。身長180センチの金本と190センチ(公称189センチ)の新井。嫉妬で心の距離ができたのではない。その体格、その体の強さがあれば、俺より、もっとやれるだろう。なのに、あいつの練習量は物足りない。教えたことを自分のものにしようとしない…。

 その力を認めていなかった広島時代とは違う。05年に新井が本塁打王に輝いたことでハードルは上がっていた。俺が190センチあればもっとホームランを打てる…はがゆさで金本が突き放せば、新井は「僕は僕なりにやっている」と、次第に反抗心が芽生えはじめた。

 「新井が広島に帰った理由、知ってるか?俺が阪神の監督になる1年前にも、俺が就任するっていう噂(うわさ)が出たでしょ。あれを聞いて、こいつすぐに出ていったからね。もしかしてカネさんが監督になるかもしれないってね。やばい、やばい、良太、ワシは先に逃げるけぇって」

 この夜、ヤフオクドームで2人の掛け合いが報道陣の笑いを誘った。新井は「ククク…」と笑いをこらえていた。こんなに雰囲気のいい2人を見たのはいつ以来だろう。

 新井は広島へ戻って良かった。もし今、金本の下でプレーしていたら、この夜の2ショットはなかっただろう。“師弟”の呪縛が解かれた今、2人の心の距離が戻ったような気がする。=敬称略=(阪神担当キャップ・吉田 風)

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