【ライフ】エコノミー症候群の予防法

 熊本県を中心に相次いでいる地震で、自動車内に避難していた熊本市の51歳の女性が18日に「エコノミークラス症候群」で死亡した。余震は絶え間なく続き、過酷な避難生活が長期化することによる被害の拡大が懸念されている。この病気の原因と予防法は何か。たにみつ内科(兵庫県伊丹市)の谷光利昭院長に聞いた。

 ◇   ◇

 人間が生きていくためには酸素が必要です。酸素を血液中のヘモグロビンに結合させて、全身に巡らせているのが心臓です。心臓には、肺から送られた酸素濃度の高い血液が流入して常に全身に送られているので、私たちは生きていけるのです。その酸素が結合した血液を送り出せない状態を作るのが、エコノミークラス症候群です。血液の塊が肺動脈につまり、新鮮な血液を全身に巡らせることができなくなるのです。そのために全身に酸素が行き渡らず、ひどい場合には死に至るのです。

 血栓は足の中心部(深部)の静脈で形成されることがほとんど。そのために別名は「深部静脈血栓症」とも言われています。飛行機のエコノミークラスに長時間搭乗し、身動きができない状態でいる人にできたところから、エコノミー症候群と呼ばれるようになりました。しかし、ビジネスクラスや、長時間の車の旅行で発症することもあります。長時間同じ姿勢、特に下肢の血流が阻害される状態にあると危険度は増します。

 残念ながら、原因はこれだけではありません。何らかの薬をのんでいるときや、血管内にカテーテル(管)を入れる検査をした際についた血管壁の傷なども血栓のひとつの原因となり問題視されています。そのほか、血液が固まりやすい体質の人がおられます。いわゆる凝固系因子に異常を有している人たちです。簡単な血液検査で凝固能異常に関しては判明します。

 今回の被災地では、痛ましい突然死の原因として取り上げられています。わたしたちが簡単に取り組める予防法として効果的なものがいくつか挙げられます。

 まずは長時間、同じ姿勢をとらないこと。飛行機、自動車などで長時間座っている際には、隣の人に迷惑にならない程度に足を定期的に動かすことです。1時間に1回程度、足の指を曲げたり、伸ばしたり、足首を曲げたり、伸ばしたりするだけで、足の筋肉が“ポンプ”の作用をして足の深部の静脈血流を促進します。ふくらはぎをマッサージするのもいいでしょう。逆に、足を組んでの長時間の座位は、エコノミー症候群の観点からすると非常に危険だといえます。

 次に適度な水分の補充を怠らないこと。被災地では、水がなかなか手に入らないこともあると思いますが、少量でいいので何回かに分けて、こまめに水分を補給するようにしてください。ただし、同じ水分でも、アルコールやカフェインを含むコーヒーは危険です。たとえば、機内などでそれらを多量に飲むと、排尿が様々な因子で促され、水分を取っているつもりでも血管の中は脱水になっていることが多いのです。もちろん、車中でも同じです。こういった状態は、エコノミー症候群にとっては危険な状態です。また、妊婦さんや、婦人科、整形外科で使用される特定の薬でも血栓発症のリスクが高まります。該当される方は、特に注意してください。

 エコノミー症候群の症状には、突然死の原因のひとつである心筋梗塞、大動脈解離、大動脈破裂などにみられる強い胸痛、呼吸困難があります。私がかつて勤務していた病院では、S状結腸がんの手術後1日目の患者さんが同様の病態になったことがありました。懸命の治療が施されましたが、その患者さんは残念ながら鬼籍に入られました。同症候群は院内で発症しても、救命が困難なこともある病気ですが、上記のことを心掛けることにより、リスクの軽減は図れます。少しでも不安があれば、直ちに医師と相談することをお勧めします。

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