【野球】恩人が明かすマエケンの人間性

 間もなく2月1日、球春が到来する。12球団が頂点を目指して一斉にキャンプイン。広島も25年ぶりのリーグ優勝を目指して、実践漬けの1カ月を過ごすことになる。カギとなるのは前田健太投手が抜けた穴だが、米大リーグ・ドジャース入団を決めた、その前エースは1人、黙々と自主トレを続けている。

 「宮本スカウトには、本当に感謝しています。あの人がいなければ、ドラフト1位でカープに入団することができなかったと思いますので」

 1月30日まで10日間、広島の球団施設で汗を流した前田は、在籍9年間を振り返りながら、1人の“恩人”へ感謝の言葉を口にした。その“恩人”とは、広島で30年近くスカウトを務め、現在は日本福祉大学で特別コーチ兼チーム編成部長を務める宮本洋二郎氏。当時、担当スカウトとして、前田の単独指名での獲得に尽力した。

 2006年のドラフトは、田中将大投手(ヤンキース)、坂本勇人内野手(巨人)、大嶺祐太投手(ロッテ)、堂上直倫内野手(中日)ら高校生が豊作の年だった。「あの世代は投手が多くて、将大に増淵、大嶺。堂上も含めてみんな競合だったので」。だが、広島は5月に早々と前田の1位指名を決定。前田は、宮本氏が一貫して推薦していたと、後々に聞かされたという。

 「カープだけは僕を評価して単独の1位指名。宮本さんが毎日、学校に足を運んでくれて。すごく思い出に残っています。大阪にいたこともあって正直、カープという球団のことは、よく分からなかったんです。でも、宮本さんが学校に来られるようになってから、カープの試合を見始めるようになりました」

 宮本氏は前田の感謝の言葉を伝え聞くと、涙ながらに思い出を振り返った。「彼は技術だけではなく内面も素晴らしい。プロになるためには技術だけじゃなく、人間性も必要。彼はそれを合わせ持っていた」。1位指名決定の5月以降、同氏の関心は投手として、人としての内面だった。ある試合で、それは自信から確信に変わる。それはマウンドに立つ姿ではなく、左翼で出場した試合だった。

 「三塁のベンチから、チェンジになってレフトに守りに行く。一直線に走れば近いのに、必ずいったんマウンドへ行って、投手に声を掛ける。エースが投げないんだから、そんな強い相手じゃない。それでも、そんな気遣いができる。そういう人間性がすごかった」

 強烈なインパクトを残した18歳は、宮本氏の眼力通りにカープ、日本のエースへと成長。世界最高峰の舞台に挑戦する権利を得た。「戦力として抜けるのは痛いけど、彼がプレーの中で残したものは、みんなの心の中にあるはず。それが一つの財産だ」と鈴木清明球団本部長は話す。

 前田は、次期エースとして期待する大瀬良大地投手にチェンジアップを伝授するなど、自主トレ期間中にエースの心得を伝えた。9年間でチームに残したものは、有形無形の効果をもたらすだろう。

 果たして今季の広島は、どんな戦いをするのだろうか。25年ぶりの悲願達成は-。前エースは「こればかりはシーズンに入ってみないと分からない」と前置きした上で自信、確信を持って続けた。「でも、大丈夫。僕も黒田さんが抜けたあとにチャンスだと思って、先発の1枠を必死に取りに行きました。僕が抜けることによって、チャンスの選手もたくさんいます。その座をつかむ若手が、出てきてほしい。投手もたくさんいますし、野手もいい選手がそろっているので。確実に優勝が狙えるチームです」。

 キャンプインは目前に迫る。前エースの思いも背負いながら、頂点を目指す戦いが始まる。(デイリースポーツ・田中政行)

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