渡辺彩香は女性版ジャンボになれるか?

 女子ゴルフの大型選手・渡辺彩香(21)=ユピテル=が脱皮の時を迎えている。今季は持ち前の飛距離が伸びた上、ショートゲームの精度もアップ。4月第1週のヤマハレディースオープン葛城では、難コースの葛城GC山名Cを攻略し、見事な優勝を果たした。身長172センチという恵まれた身体に飛距離、アプローチの精度を合わせ持つとなれば、私の年齢(56歳)で思い浮かぶのは、ジャンボ尾崎将司。さて、渡辺は女性版ジャンボになれるのか?

 ヤマハレディース最終日。4位でスタートした渡辺は、ドライバー平均飛距離270ヤードのアドバンテージにモノをいわせ、男性顔負けのアグレッシブなゴルフを展開する。最終18番でもバーディーを奪うなど最後まで攻め手を緩めずに67をマーク。鮮やかな逆転優勝をつかんだ。

 優勝の原動力は、技術的にはドライバーの飛距離とショートゲームの精度アップ。飛距離についてはオフに昨年までの曲がり幅の大きいフェードからストレート系への改良に取り組んだ。最初は球筋が安定せずに結果を残せず、開幕から3戦は予選落ちを喫した。

 「スイングを変えて良かったのか?」と迷いが生じた時期だったが、4戦目・アクサレディース宮崎のプロアマ戦の日に樋口久子・日本女子プロゴルフ協会相談役から「スイングは良くなっている」とお墨付きをもらい、「自信になった」と迷いを吹き払った。

 アクサで今季初めて予選を通過し、最終的にも10位に食い込むと、翌週の第5戦、ヤマハレディースでは、練習日に課題としていた50~70ヤードのアプローチショットの縦の距離の精度向上に取り組んだ。キャディーに練習場の横に立ってもらい、ボールの落ちどころを目視で確認してもらうドリル。目標の前後1ヤード以内なら両手で丸を作ってもらい「合格」を確認する。

 その成果が最終日の快進撃になって結実し、今季初優勝へとつながった。

 「今季は飛距離で10ヤードくらい伸びています。アプローチも65ヤードとかが苦手だったんですが、あの練習でかなり精度が上がっています。今年は複数回優勝が目標。それとメジャーでも勝ちたいです」

 私が取材した中でも「今年の渡辺はやる」という雰囲気が漂っていた。急成長する選手にはそれを予感させる独特の空気があるが、それが渡辺にはあると感じたのだ。

 では、渡辺は女性版ジャンボに近づくことができるのか。私は潜在能力は十分あると思っている。12年のプロ転向時はパットに苦しんでいたが、徹底してパッティング練習を積み重ねたことで、12年の後半から改善している。ジャンボに近づけるかのカギは、メンタル部分に負うところが大きいだろう。

 ジャンボのゴルフに対する情熱は、私には語る資格はないが、ものすごいものがあることだけは分かる。4月第3週の男子開幕戦・東建コーポレーションカップ(三重県・東建多度CC名古屋)を取材した際、ジャンボは真顔でこう語っていた。

 「このオフは朝、ワンちゃんを連れて散歩に行くときに、両足首に4キロの重りをつけて歩いたよ。片足2キロずつね。そうするとコースで歩くくらいは何ともなくなると思ってさ。囚人みたいだけどね。やらなきゃ、しょうがないだろう。試合に出るからには期待を持って見てもらえるゴルフをしたいからね」

 ジャンボは1947年生まれ。今年68歳にして、この情熱と向上心。そして長く日本のトッププレーヤーに君臨した王者の責任感。渡辺はまだ21歳。ジャンボと同レベルのメンタルを持つのは至難の業だが、見習うことはできる。抜群の飛距離にショートゲームの向上があれば、近い将来、世界で戦える逸材であることは間違いない。私は渡辺に女性版ジャンボへの飛躍を期待するからこそ、できるならば、レジェンドの心を学んでほしいと願う。

(デイリースポーツ・松本一之)

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