ドラフト候補が4年生で異例コンバート

 最初は耳を疑った。新シーズンに向けてのコンバートはよくある話。しかし強豪大学のドラフト候補に挙がる選手が、本格的な経験のない捕手に、しかも最終学年となる年に挑戦するのは、極めて異例だ。亜大の練習始めだった1月8日、北村祥治主将(星稜高出身)は、見慣れないプロテクター姿で送球練習に励んでいた。

 堅実な守備としぶとく勝負強い打撃が持ち味。入学直後の1年春から2番や3番に座り、レギュラーを務めた右打ちの二塁手は3度、ベストナインにも選出された。昨春までのリーグ6連覇への貢献度は高かった。

 コンバートの理由は純粋なチーム事情から。6連覇中は、東浜巨(ソフトバンク)、九里亜蓮(広島)らエースに脚光が当たる一方、5連覇まで嶺井博希(DeNA)という不動の正捕手がいた。昨年は4年生2人と2年生の3捕手を併用。春は優勝したものの、秋は4位に沈んだ。4年生が抜けることもあり、生田勉監督は「試合の流れを作る、勝てる捕手が欲しい」と、北村に白羽の矢を立てた。本格的な練習が始まったのは12月からだ。

 捕手は星稜中時代以来。全国大会の決勝でマスクをかぶった経験はあるが、その中学でも遊撃手の出場がほとんどだったという。昨年の大学日本代表で捕手の練習にも参加したが、国際大会では登録選手数が限られるための緊急時に備えたもの。「まさか転向はないだろう」と思うのも無理はなかった。

 だが、日本代表のコーチでもある生田監督は違った。中学、高校と主将を務めた統率力や状況判断力は、もともと高く評価。実戦形式の練習の動きを見て「あれだけのキャッチングができれば、スローイングさえ安定していれば、いい捕手になる」と確信した。二塁送球は、1秒9を切るプロ並みのタイムを計測したそうだ。

 ドラフト対象となる今年は、今後の野球人生を左右する1年。コンバートは勇気が伴う決断ともいえるが、北村は「その道で(捕手として)上を目指した方が、生き残っていける確率が高いかも。転向もキーになる」と、前向きだ。

 すでに、昨年12月の練習試合でマスクをかぶり、4回を無失点。野球ノートには配球に関する記述が、びっしりと並ぶようになった。書籍やネットでの研究にも余念がない。「捕手というポジションは、ゲーム全体も投手のことも考えないといけない。そんなに時間はない」という勤勉さに、指揮官は「嶺井にはそういうところがあった」と目を細める。昨年末の野球部の会合にOBとして出席していた嶺井も「あいつなら、うまくこなせるでしょう」と、太鼓判を押していた。

 大目標はリーグ戦優勝と日本一の奪還。「捕手は扇の要。僕には嶺井さんのような技術も肩もないけど、何とか人間的な部分で信頼を受けて、存在感のある捕手になりたい」。異例のコンバートを成功させて、プロの世界へ…となれば、何ともワクワクする話だ。北村が険しい道を切り開いてくれることを期待したい。

(デイリースポーツ・藤田昌央)

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