和田阪神を引っ張る「無言」の選手会長

 阪神は開幕3戦目で優勝に不可欠なリードオフマンを欠くことになった。守備中のアクシデントで西岡剛が肋骨(ろっこつ)など数カ所を骨折。検査後、全治期間は明らかにされなかったが、重傷であることはプレーを見た誰の目にも明らかだった。

 攻撃のアクセント、いやらしさ、闘争心…その存在が消えれば敵軍の警戒感が半減する。西岡は加入2年目にして、阪神で絶対的な存在になっていた。そのキーマンの穴を見事に埋めている選手が今、阪神を引っ張っている。

 27歳の新選手会長、上本博紀だ。セ・リーグ打率ランキングの上位に名を連ね、守備範囲の広さでも投手陣を援護する。二塁手の「2番手」であったことを忘れさせる躍動感で、首位争いを演じる虎の主要な戦力になっているのだ。

 その上本が5月3日のヤクルト戦(神宮)で右手親指を負傷した。守備中に飯原のライナー性の打球がダイレクトで直撃。途中交代で都内の病院へ直行し、骨折が判明した。翌4日には出場選手登録を抹消されたのだが、驚くべきは、その2週間後に実戦のグラウンドに戻ってきたことだ。

 球団トレーナーの1人は、こう証言する。

 「まだ、完治はしてませんよ。痛さのレベルって、人それぞれじゃないですか。本人が痛みの程度を話してくれなければ、こちらには分かりません。基本的に、多くを語らないんでね。今回、上本に何を聞いても『大丈夫です』としか答えませんでした」。

 負傷から17日後に1軍の戦列に復帰し、ヒットを放ち、得点にも絡んだ。こちらが取材をすると、ふた言目には「特に…」と、取材でも多くを語ろうとしない。野球を離れれば冗談も言うし快活な男だが、職場でのストロングポイントは「無言」であること、かもしれない。 

 前出と別のトレーナーは「特別扱いを嫌う選手」だという。「去年も足の故障で長い間、リハビリをやっていましたけど、どこか痛くても、彼はまずテーピングを嫌います。今回も骨折ですから、患部(親指)にパッドを施したほうが痛みが和らぐこともあるのですが、実戦復帰した2軍戦でも、何も巻かずに試合に出ましたよ」。

 こんな話をしていると、かつて「鉄人」と呼ばれた阪神OBの金本知憲氏をほうふつとさせる。そういえば、2人は広陵高の先輩、後輩。現在、本紙評論家で筆をとる金本氏はいつも、上本を評して「おとなしそうに見えて、あいつはかなり芯が強い」という。新井など身近な選手には手厳しい金本氏が上本だけは褒める。つまり、2人の「信念」が、よく似ているのだろう。

 掛布雅之DCが昨秋のキャンプで選手たちにニックネームをつけた。新井良には「小ミスター」、今成には「小掛布」、森田には「小バース」…と。だが、上本にはつけなかった。チーム内の証言を聞いていると、「小鉄人」などと名付けたくなりそうだが、上本のキャラクターには合いそうもない。

 プロ野球の全球団で打席に入る前に各選手ごとにテーマ曲を流すのだが、上本は「要りません」と「無音」をチョイスした。もちろん、チームで唯一だ。男は黙って…を地でいく選手会長が、和田阪神3年目のシンボルになりつつある。

(デイリースポーツ・吉田 風)

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