蟹江さん映画デビュー作の巨匠監督語る
名優・蟹江敬三さん(享年69)が死去した。亡くなられたのは3月30日で、公になったのが4月4日。くしくも、その日、蟹江さんの映画デビュー作「あゝ同期の桜」(1967年)を監督された東映映画の巨匠・中島貞夫氏(79)を京都のご自宅に訪ね、ひとしきりご挨拶や取材を終えて、その場を辞した後に知った訃報だった。
そこで、中島氏に改めて蟹江さんについてうかがった。「松方弘樹や千葉真一といった(東映のスター俳優)以外、半分はオーディションで劇団の役者を採って、カニエちゃんも、夏八木勲や村井国夫らと一緒に選ばれたわけです。カニエちゃんは1人だけ空威張りしているんだけど、どこか威張りきれないという複雑な役。そんな(人間の多面性を持った)役でも、彼ならいけるなと初対面の時に思いました」。蟹江さんは同作で出陣学徒の1人として出演している。だが、その後、中島作品に登場することはなかった。
中島氏は語る。「カニエちゃんはかなり気になる役者でした。僕の作品にもドンドン出て欲しかった。東映でも、川谷拓三(95年死去、享年54)がやっていた役なら、カニエちゃんにあっていたと思うんです。でも、当時の東映にはそういう役者がいたので…(機会がなかった)」。監督の意外な言葉から、蟹江さんが“タクボン”のポジションで演じる中島作品を想像してみた。真っ先に思い浮かぶのは「狂った野獣」(76年)だ。川谷さんが扮(ふん)した気弱なバスジャック犯を蟹江さんにかぶせてみると見事にはまる。
中島氏をはじめ、故深作欣二監督、鈴木則文監督らが台頭し、東映映画が熱かった70年代、蟹江さんは別路線を歩んだ。故勝新太郎さんが監督した「顔役」(71年、大映)では、出番こそ少ないながらも不気味な殺し屋役で強烈な印象を残した。中島氏が「カッちゃん(勝新太郎)にとっても、気になる役者だったでしょう」と指摘する通り、勝さん主演の「御用牙」シリーズ2作(72、73年)で子分のマムシをひょうひょうと演じた。
日活ロマンポルノでも名監督の作品で存在感を発揮。長谷部安春監督の「犯す!」(76年)、藤田敏八監督の「横須賀男狩り 少女・悦楽」(77年)、そして、日本映画の1本として後世に残る曽根中生監督の傑作「天使のはらわた 赤い教室」(79年)での繊細な演技も忘れられない。同じ79年でいえば、「十九歳の地図」(柳町光男監督)での新聞販売店に住み込む“ダメ中年”のブザマな、そして同時に、あまりにも人間的な姿は見る者にトラウマを与えるほどだった。
近年の映画では、荒川良々の父親を演じた「全然大丈夫」(08年公開、藤田容介監督)での、ボンヤリした姿の奥底に、どこか“狂気”をはらんだ初老の古書店主が出色だった。「10年先か20年先か、ちゃんとした老人を演じられるようになるまでなんとか頑張りたい」という言葉につながる演技で、それは昨年の「あまちゃん」にもつながっていく。
映画デビューから47年でこの世を去った蟹江さん。中島氏は「僕よりずっとお若いのに…。この前は夏八木さん(昨年5月死去、享年73)も逝かれたし、そういう時代になってきたということでしょうね」と悼んだ。
(デイリースポーツ・北村泰介)
