星稜・山下総監督&西谷監督対談【4】

 2016年、高校野球は次の100年が始まる。デイリースポーツでは評論家の山下智茂氏(70)=星稜総監督=が全国を旅し、次世代の高校球界を考える新企画をスタート。第一弾は春夏連覇など監督として自身4度の甲子園優勝を成し遂げた大阪桐蔭・西谷浩一監督(46)を直撃した。生駒山地の自然に囲まれた大阪府大東市の同校では、山での走り込みや神社の階段登りなど昔から変わらない冬場のトレーニングが繰り広げられていた。練習を初視察した山下氏が強さの秘密に迫った。(取材、構成=編集委員・船曳陽子、重松健三)

  ◇  ◇

 -全寮に意味がある。

 西谷監督(以下、西)「みんなで生活しているのでごまかしが利かない。中身が伴わないと。僕自身もずっと独身の間は寮にいましたし、今もずっといるようなもんです。みんなが寝たら帰る。起きたらいるから、あいつらからしたら泊まっていると思っている。それこそごまかしが利かないです。その辺(人間力)を何とかつけたいと思います」

 -やんちゃな選手が多く見えるがそうでもない。

 西「中田(日本ハム)もそうですね。体もごっつくて生意気なイメージを持たれますが。風貌が悪いので何とかならんかと言うのですが(苦笑)。イメージ的にうちはやんちゃキャラですよね。でも実際は、山の中でみんなで練習して、遠征に行くのがうれしい。遠征のメンバーに選ばれて、ドライブインでソフトクリーム食べたいだけなんです。そのためには試合に勝っていい雰囲気で帰らないと、僕が怒っていると食べられない。あいつらの幸せのハードルは低いです(笑)」

 -優勝回数を重ねてきたが。

 「僕は案外いい年に勝たせてやれてないんです。初めての優勝は中田の次の年。中田の年は中田以外もよかったんですが。藤浪の春夏連覇も、実は1つ上の野手がすごくよかったんです。そこに藤浪が2年でいた。ずっと本当にこれで勝負したいという年に勝たせられてないんです」

 山下監督(以下、山)「監督というのは強いチームほど負けるんだね。負けて基本に帰る。それで一日中キャッチボールとか一日中ノックとかをする。そういうチームは粘りが出て勝てるようになる。大阪桐蔭はみんな打撃のチームだと言うが、僕はずっと投手中心に守りがきっちりしているから勝てると言っている。一番キャッチボールがしっかりしているからいい。原点があってこそ、日本一になれるんだと思うんだけどね。守備もすごいけど走塁もすごい」

 西「そこは力を入れているんですけど、誰も認めてもらってないんです(笑)」

 山「総合力で勝っている。どちらかと言うと負けないチームかな。球際が強いよね。要はあきらめないチーム。うまいチームの上に、心を鍛えているからプロに行って通用する。技術もすごいけど。今、多くの高校は一番大事なことを忘れている。心を鍛えていない。だから、大学やプロに行っても伸びない」

 -西岡の守備のカバリングは西谷監督に教わったと聞いた。

 西「あいつを二塁手にした時です。本当に野球を知っている人は、二塁手のカバリングを見ていると話しました。だから本物の人にほめられる選手になれって言ったんです。三塁手も遊撃手も投げたときに後ろに西岡がおったら、スタンドで必ずあの二塁手はすごいと言う人がいる。芝生の一番後ろまで守って、前も(カバー)できたら絶対見ている人がいる。え?セカンドあそこまで行っているの?と」

 -プロでも西岡はそれを実践している。

 西「西岡は案外従順で、すごい教えてほしいタイプなんです。頑固なのは中村。反抗はしないけどハイっていいながらやらないんです(笑)。そういえば、いつもあいつだけ、甲子園に出ても何も(差し入れが)なかったんです。それが、2年前くらい時に突然電話がかかってきて『先生、何かお祝いを』って。びっくりしました。部長に言ったら、今頃って?(笑)。10回分くらいたまっていた。でもよく考えたら、あいつ自身が甲子園に出ていないんです。ほかはみんな出ている。自分がしてもらっているからわかるけど、わからなかったのかも」

 -後輩思いのOBが多い。

 西「中田が一番すごいです。毎回子供たちに何かを贈ってくれる。森でセンバツに出る時に『キャプテン呼んでください』と言って。『優勝したら何かしてやる』と。森は『上下のウインドブレーカーがほしいです。メンバーだけじゃなくて全員。西谷先生はみんなで戦うって言ってます』と言って(笑)。中田は負けてもしてくれるけど、勝ったらやったると言ってくれるんです。なかなかお金持っていてもできないこと。ありがたいです」

 -寮にいた時代には監督の家にもよく行っていたと。

 「今も、僕には連絡がなくても嫁さんには連絡があります。寮で3年生は日曜日に外出とかするんですけど、中田は外に出たらえらいことなるんで、嫁さんがご飯食べにおいでと言っていたんです。ある日、練習が終わったら中田が待っていて『先生、今日の晩ご飯は焼き肉みたいです』って。中田が嫁さんに電話して、焼き肉食べたいってって言ってたんですけどね。食べたら『先生、僕どうやって帰ったらいいですか』って。走って帰れと言うと『ケガしたらまずいです』と。僕は飯食ってから、なんでお前を送らなあかんねんと言いながら送っていくんです(笑)。僕にはともかく、嫁さんには恩義を感じているみたいですね。あいつは優しいですよ。うちの子供にもよくしてくれます」=続く

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