若手野手の萌芽期 91年と似たにおい

 元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(72)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るう。

  ◇   ◇

 前回、山本浩二監督の第一次政権でのキャンプでの厳しさについて書いた。その資料を調べていく際、あらためて気づいたのは、戦国の世なら元服したばかりのような若武者が続々、戦線に名乗りを上げていることだった。

 野村謙二郎を筆頭に江藤智、前田智徳、緒方耕市、西山秀二、金本知憲…。これら若手が後に球界を代表する選手になっていることを考えれば、球団の選手づくりとスカウティングのうまさを世に示した最初の事例といっても、差し支えないのかもしれない。

 当時は6度目のリーグ優勝を飾った1991年でさえ、チーム本塁打数が88本と球団創設期並みの「水鉄砲打線」である。優勝と同時に育成も求められた山本監督とすれば、若手にチャンスを与えやすい環境ではあったろう。

 素質のある若者の成長は早い。大卒3年目の野村は主力として大活躍。高卒3年目の江藤、2年目の前田は早くもレギュラーに定着している。こんな前途が洋々とした攻撃陣とは裏腹に、「投手王国」の崩壊が山本監督の悲劇を招いた。

 それは就任5年目の93年。川口和久が8勝11敗、佐々岡真司が5勝17敗と両エースがこの有り様で、二桁勝利の投手が皆無では19年ぶりの最下位も致し方なかったろう。

 山本監督の留任は同年、既に決まっていたが、この惨敗によって自らの意思で詰め腹を切った。その時の松田耕平オーナーのコメントが山本監督の業績を一言で言い表していた。「井戸を掘って、ようやく水が出てきた時に辞任とは残念」。山本監督が掘り当てた江藤、前田らのこの水脈が激流となって、リーグを席巻するのは三村敏之コーチが後任の監督になってからだった。

 その実態については以前、本欄で書いたことがある。それをもう一度、簡単におさらいすると、全開したのは96年である。金本、緒方の成長とロペスの加入によって、打線は大爆発の繰り返し。その様を称して三村監督は米大リーグで伝説化していたレッズ打線になぞらえ、「ビッグ・レッド・マシン」と名付けた。

 当時のオーダーと成績は別表の通り。この強力打線で7月上旬までは当たるを幸いに相手を蹴散らし、巨人に最大11・5ゲーム差を付けていたが、投手陣がおぼつかない悲しさ。長嶋茂雄監督の指揮で大逆転の「メークドラマ」を演じられ、最終的には3位に終わっている。

 こうして振り返っていくと、今年のカープ打線は91年の若手の萌芽時と同じようなにおいがしてくる。坂倉将吾を筆頭に昨年、元服を済ませたはずの小園海斗、林晃汰、宇草孔基、中村奨成、大盛穂、羽月隆太郎らに加え、新人の末包昇大、中村健人と有望な野手がずらり。数の上では91年当時を上回ろう。ここまでのオープン戦では、かなりの選手が戦果を挙げていないが、大局的な視野で眺めれば、今はそう焦ることもあるまい。

 では「鈴木誠也の抜けた穴はどうする」との問いかけに対しては、西川龍馬に期待したい。これまでは他の追随を許さないほどの曲芸打ちを得意とする半面、誰もがあきれるほどの悪食。こんな天才打者が今年は下半身重視のバッティングに変えると、年頭に言っていた。この発言を技術的な視点で解釈すると、どっしりと構えた分、悪球に手が出しにくくなるということではないか。そうなれば、打率は大幅にアップし、打線の軸として機能するはずだ。

 毎年、開幕前は世間では、順位など予想が飛び交う時期である。それに即して占うと、今年は新外国人のマクブルームの加入や長野久義、松山竜平の復調を含め、例年以上に楽しみな打線になったと見ているが、一方で予想は下から読むと「うそよ」。といった次第で、果たして私の予想は当たる八卦となるか、どうか。たとえ優勝は逃してもBクラスだけは、“よそう”よ。

 ◆永山貞義(ながやま・さだよし)1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。阪神で活躍した山本和行氏は一つ下でエースだった。

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