通算1勝でもドラフト上位候補の右腕

 ピッチャーはコントロールと球のキレ-。取材した指導者や選手から、幾度となく聞いた『格言』だ。まったくその通りだと納得する。ただ一方で、思わず足を運んでしまうのは、こんな評判を聞いた時。「××のエースは150キロぐらい出るらしいよ」。そう、やはり速い球を投げるピッチャーは、興味をかき立てられる。

 この春、全国的な知名度はまだ低いものの、ワクワクする剛腕の投球を初めて見た。白鴎大・中塚駿太投手(4年・つくば秀英)。多くの球団のスカウトが熱視線を送る右腕だ。

 3年生だった昨秋の段階で最速153キロを誇っていたが、ひと冬を超えてさらに成長。2月のオープン戦で154キロに更新すると、4月10日に行われた関甲新学生リーグ・関東学園大戦では、最速157キロをマーク。リリーフの1イニングとはいえ、この試合はほとんどの直球が155キロ前後だったという。

 球速に加えて、目を引くのが恵まれた体だ。身長191センチ、体重103キロという外国人並みのビッグサイズ。社会人野球で投手として活躍した、父譲りの身体能力が備わっている。

 これほどの大器が、なぜ今まで無名だったのか。理由は制球力のなさだ。高校時代は「球が速いだけ。試合に使える投手じゃなかった」と自ら認めるように、常に3、4番手で公式戦登板は2度だけ。白鴎大でも、昨秋までは6シーズン未勝利だった。今季は初先発した今月8日の新潟医療福祉大戦で念願のリーグ戦初勝利。だが、リリーフした15日の上武大戦では制球難が顔を出し、1回2/3を4失点で降板。直球を痛打される場面もあった。

 チームのエースではない。通算1勝と実績も乏しい。現状では、大事な試合に信頼して送り出せる存在ではない。それでも、今秋ドラフトの上位指名候補にリストアップする球団があると聞く。スカウト陣からは「今まで見た選手の中で一番速い」「伊良部(元ロッテ、阪神など)を思い出した」「スピードは田中正義(創価大、最速156キロ)並み。十分でしょう」といった言葉が相次いだ。プロにとっても圧倒的な球速は、やはり大きな魅力なのだ。

 中塚がマウンドに上がると、観客からは「速ぇ~!」という感嘆の声がもれた。そういえば今春の高校野球でも、東海大市原望洋の最速153キロ右腕・島孝明投手(3年)の登板に、スタンドが大きく沸いた場面があった。速球派には、わかりやすく人の心を揺さぶる力がある。

 今春の開幕前、中塚は「まだ自分に自信がない。結果を出さないと」と、ドラフト候補として注目されることに戸惑っている様子だった。取材した印象は、穏やかでマイペース。そんな性格も、マイナスに働いていたのかもしれない。今季最終登板となった上武大戦後には「注目されて『コイツ違うな』というのを見せたくて、力むことがあった」と、素直に明かした。制球力アップに加えて「意識せずに自分のピッチングを心がけないと。一番はメンタル面。自分との戦いですね」と、課題をはっきりと認識した春だった。

 もちろん、いい投手、勝てる投手になった方がいい。ただし、最大の魅力はそのまま持ち続けてもらいたい。中塚に秋の目標を尋ねると、チームの優勝と自身の先発定着を挙げた後「大学生最速は157キロ(中大・沢村、東海大・菅野=ともに現巨人)と聞いたので、塗り替えたい気持ちはあります」と、言葉を続けた。

 秋はさらなる飛躍を遂げて結果を残し、プロでも160キロ台を連発してファンを熱狂させる-そんな未来図を期待してしまうのも、彼が“最速157キロ右腕”だからこそ。まだまだ粗削りながら、とてつもない投手に大化けする可能性を秘めた剛腕に、スピードのロマンを再認識させられた。(デイリースポーツ・藤田昌央)

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