じゃあ、バット振れよ

 【10月29日】

 福留孝介から連絡があった。

 僕の息子とばったり会ったそうで。

 「○○で会いましたよ。挨拶してくれて…。しっかりとされていますね」

 恐縮です…。

 実は、福留とは生活圏が同じで、かつて近所の公園で野球を教わったこともある。親として感謝が尽きないわけだが、今回わざわざLINEをくれるあたりが律儀なところであり、また、礼を重んじる彼らしさでもあり…。

 そんなふうに思っていると、きのうの本紙1面で「福留孝介」が話題になっていた。阪神の秋季練習に合流した新ヘッドコーチ平田勝男が就任あいさつで福留の言葉を引用したのだ。若虎が真剣な眼差しで聞き入ったその「勝男節」をあらためて紹介すれば…

 「孝介がいいこと言うたんよ。引退するときにね」

 平田は続ける。

 「『自分で限界を作らないでくれ』と…。特に秋は体ができてるんでね。限界を作らずにとことん技を磨くというか、技術を身につけるというか、そういうことを孝介が若い選手に言ってくれたんでね。それをこの時期はいつも使わせてもらってんのよ」

 このエピソード、実は僕も聞いたことがあった。何年前だったか。麻布十番で食事をともにした帰りのタクシーで…。こちらはホロ酔いだったけれど、福留がとても冷静な口調だったのではっきり覚えている。

 「若い子を見ていると、自分で限界をつくっている選手が多いんですよ」

 練習を見れば、およその潜在性は分かるという。数年前、ある野手に目をかけていた福留は、たまたま鳴尾浜でその選手と同じケージで打撃練習する機会があった。一人が打って、もう一人が休む。そんなバッティング回りだったが、3回りほどして、福留はその若い選手に声を掛けた。

 福留「お前、何をボ~ッと休んでんの?休むヒマなんかないんじゃないか?野球をやりたいのか、トレーニングをやりたいのか、どっち?」

 若虎「野球をやりたいです」

 福留「じゃあ、バット振れよ」 

 今の時代、なかなか、こんなことを言うセンパイはいないかもしれない。 「初めて見たとき、あっ、こいつはモノになるって思いましたから」

 同選手はその後間もなく構想外で阪神を去った。福留は「もどかしくて」と言う。素材がいいからプロになる。「自分で限界をつくって練習したらダメだって…。もったいない」。レジェンドのゲキを懐かしむ秋だ。 

 虎将藤川球児は連覇へ向かう今年の夏ごろにファームの選手へ向け、こんなふうな言葉で発奮を促していた。

 「故障以外で1軍で戦えていない、2軍にいるというのは、実力不足というか、努力不足」

 言葉の強弱は異なれど、その裏側にある「心」は福留と同じだ。

 「心」といえば、熱いそれを携えた新打撃コーチが近日中に合流し、入団会見に臨む。人柄、献身性、指導力…いい噂しか聞かない。安芸キャンプが楽しみになる。=敬称略=

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