命を削った戦友に贈る
【10月3日】
おい、球児。なんてザマだ。めでたい日にすみません…。でも、言わせてもらう。どれだけ待たせんだよ…。あっちの世界よりこっちは秋風が染みる。泣きたいのはこっちだわ。
ん?あっち?今はこっちにいるからえ~っと、ああ、ややこしい。てか、こっちの世界は何か月ぶりだろ。オレが死んだのが6月…いや、それはどうだっていい。あの夜、死に際の枕もとで球児の声が聞こえたのは覚えてる。
「これからは、どこへでも一緒に連れて行ける」
人を愛犬みたいに言いやがって。
たしかに便利になった。でも、あっちの世界で胸クソ悪いのは、そう…。むさしがない。そっか。なんだ、気が利くじゃないか。よくぞ連れてきてくれた…って、これ以上、人様のパソコンを借りるわけにはいかないんだ…。
まっちゃん、遅いわ。はよ返してもらわんと、〆切りに間に合わん。旅立つ前に言ってたこと、すっかり忘れてた。「指が思うように動かないんです…」。あっちに名医はいないのか?
それはそうと、ひとつ謝りたいことがある。まっちゃんの遺言、守れているかどうか、実は自信がないんよ。
「オレが死んだら…。球児のこと、よろしくお願いします」-。
分かった。とは言ったものの、よろしくって、どういう意味や?
さて、猛虎が連覇を決めた特別な日に読者を置いてけぼりにできない。悲しい夜にも書いたが、あらためて…
「松とら屋本舗」の筆者、元デイリースポーツの松下雄一郎が病のため、6月8日に55歳で亡くなった。
「オレの最期を看取ってほしい」
余命宣告から1年3か月。僕は約束通り、神戸の彼の自宅でそのときに立ち合った。そして…0時39分。息を引き取った深夜に着の身着のまま駆けつけたのは、松下の無二の戦友だった。
「まっちゃん。まだあったかいな。まだここにいるんやな…」
僕がそれまで握っていた松下の右手をあずけると、その男、藤川球児はそう言って笑みを手向けた。
あれから117日。いま松下家の仏壇には、球児の故郷高知で撮った遺影と、松下が使い古したスマホが置かれている。僕のiPhoneにはそのスマホからの最後の着信が残ったままだ。表示時刻は旅立ちの1時間前。
オレは今から死ぬ。来てほしい…。 あのとき西宮から車をぶっ飛ばして何とか間に合った。球児もきっと…。
「自惚れかもしれませんが、今の球児はオレを必要としているような気がするんです。死ぬことは怖くない。ただ、アイツの連覇…見たかった」
そうだ。松下と永別した夜に球児が僕に言ったこと、伝えておく。
「コラムを書くことって、本当に大変だと思う。まっちゃん、命を削って書いてたんやろうな…。読んでたら分かりますよ。やっている者にしか分からんからね。風さんもそうでしょ」
やっている者にしか…。今あの言葉を噛みしめる。命を削って感涙する球児を眺めながら…。松下の遺言、その続きはまた決戦の深秋に。=敬称略=
