全力の準備。最高の判断。
【9月19日】
敵にまわせばこんなに憎らしい男はいない。試合を決定づける5点目は、カープ菊池涼介の「状況判断」によってもたらされた。阪神が是が非でも凌ぎたかった八回の戦況である。
1死二、三塁で坂倉将吾がライトへ快音を響かせると、三塁走者の大盛穂に続いて二塁走者の菊池まで生還し、1-5。これで勝負あり。まるで心地のよろしくない秋風が身に染みた。
試合後、新井貴浩は会見でそれには触れなかったそうだけど、できれば聞いてみたかった。だって、カープが勝つなら、あそこがゲームの肝になると思ったから。
カープ2点リードの終盤、無死一塁で僕は2番菊池にバントのサインを出すと踏んでいた。が、ヒッティング。結果として菊池は四球を選び、中村奨成のバントで二、三塁の状況を作ってこのチャンスで坂倉が結果を出した。そして、菊池の好走塁で決定的な5点目をもぎ取ったわけだ。
カープが帰宿するバス乗り場で菊池をつかまえて聞いてみた。あの打席での心持ちについて。定石ではバントかな、と。そう伝えると…
「状況的にはそういうふうに思って(阪神バッテリーは様子見で)1球外してきたと思うんですよね。僕は状況次第で何でも準備していましたし(バントの)サインが出ればやるし、出なければ思い切りいこうと。ただ、それだけなので…。あそこは大きかったんじゃないですか」
大きいといえば、あなたのあの走塁はとてつもなく…。
「どうかな~ってニュートラルで入る(三塁へ走る)選手もいますけど、僕はどんな打球であろうと、絶対無理だろうなという打球であろうと、必ずかえれる走塁をします。何か(相手守備が)ポロッとしたときにでも、かえれる走塁を常に…。三塁コーチが回すと思って入っていく。ストップなら止まる…きょうの(走塁)もそうです」
翻って、阪神が勝つなら肝になるだろうと感じたシーンは初回。状況判断に抜きんでた近本光司の好走だった。
先頭ヒットで出ると、中野拓夢のヒットで二進。このあと森下翔太の浅い右飛でタッチアップし、佐藤輝明の犠飛で同点のホームを踏んだ。相手右翼手のわずかなスキをついて…というより最初からいくつもりで準備をする。このスタンスが一流かそうでないかを分かつ気がする。
甲子園の秋の浜風は向きが変わる。左から右へ。守れば配球も変わるわけだが、その風を恨みたくなるミスが同点の四回に出てしまった。わざわざ誰が何を…とは書かない。「甲子園の秋風」を初めて経験する者にとって「一流」へ向かう試練だととらえる。
そういえば、菊池を師匠と仰ぐ熊谷敬宥は師をこんなふうに評したことがあった。菊池の何が一番すごいのか。
「走攻守、すべてにおいて、状況判断が凄い人だと思います」
巨人が勝ち、勝率わずか7毛差まで迫られた。ここぞで「最高の判断」が叶う全力の準備が命運を分かつ。=敬称略=
