松下雄一郎の「遺言」

 【6月15日】

 夢なんかな…。

 最近、文字の羅列がバーッと目の前に出てくるんですよ。

 でも、なんて書いてあるのか分からない…。

 原稿のラスト、79行目。

 末尾に「……」。これだけは見えるんです。ということは、まだ続くんです。続きがあるんですよ…。

 あれ………。いま、オレなんか言ってました??寝ぼけとんかな…。

 あの日、最後の最後まで、ときに立ち上がり、ときにベッドに伏せながら語り合った。3時間…いや、もっと。

 あ、そう、そう。風さん…

 最後にひとつ、お願いがあります。

 ここでオレの最期を看取ってもらえませんか…。

 ほんで、オレのこと、取材ノートに書いてもらえませんか…。

 その「遺言」から5時間後…

 松とら屋…。松下雄一郎が…

 旅立った。

 豊かで幸甚な55年の生涯を閉じた。 風さんはオレの人生で唯一の盟友でした。背中合わせで迫る敵と撃ち合ったこと、忘れません。生まれ変わっても、また一緒に戦いたい…

 昨春からガンと闘ったまっちゃんは今際の際に手背で涙をぬぐい、大好きな仲間との追憶をたどった。

 球児には、どう伝えれば…

 いや…。アイツには言わないでください。オレが死んでからでいいんです。サプライズにしてやります

 ごめん…。その約束だけは守れなかった。だって、松下雄一郎と藤川球児の絆には、誰も割って入れない。あの夜、あなたの無類の友は着の身着のまま駆けつけた。阪神監督の鎧をおろした男が、そっと、友の胸をさすった。

 「あったかいな…。まだここにおるんやな…。ほら、腕、布団かけな…」

 6月8日、午前0時39分。

 球児は枕元に寄り添い、右手でまっちゃんの上瞼をそっと閉じた。

 その傍らには愛しいご家族、主治医、看護師さん、そして慈しむ後輩…。

 「風さん、ミッチー、まさゆき…。この3人は代えがきかない」。命が途絶える直前までそう言っていた。デイリースポーツのデスク道辻歩、そして虎番キャップ田中政行には、もうどこかで「遺言」を伝えていたと思う。

 僕へのそれは、三つあった。一つは悔しいけれど果たした。もう一つは…

 三途の川でもあの世でも…ずっと取材ノートを読みたい。だから風さんはやめんと書き続けてください

 髪も、服も、車も…趣向はまるで違った。でも、互いに語り合った「好き嫌い」の感性はそっくりで…。まっちゃんが好かんやつ、許さんやつは、こっちも好かんし、許さん。まっちゃんが大切に思う人は、こっちも…。

 球児のためにも生きないと…。今アイツを一人にするわけには…。そばにいてやらないと…。でも、もう年貢の納め時か…。風さん…。オレ亡きあとの球児を…よろしくお願いします

 三つ目の遺言、分かった。でも…。まっちゃん、頼む。もう一度…。1行目から、書いてくれよ… =敬称略=

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